第76章 - 瀬戸際 - ダミアン・ブラックウッドの視点
血と煙が鼻腔を突き刺す。弟のこと思い出すから。
弟が、まるで追いかけるみたいに俺を追いかけてきて、俺は振り返って弟と目が合った時のこと、鮮明に聞こえてくるみたいだ。弟が俺のこと見てた時のこと、覚えてる。まるで、俺はもう死んだような顔してた。
「お前が最初に死ぬんだ」
そう言って、弟は俺にナイフを投げた。裏切られたことに気づく前に、ナイフは俺の体に突き刺さった。
今、マヤが俺の膝の上で少し動く。真実を知って後悔してるのかな?
どっちでもいいんだ。後悔してても、気にしてる余裕なんてない。
自分の心臓の音聞こえる。うるさい。早すぎる。不安すぎる。
俺が全部話してから、マヤはまだ何も言ってない。ただ、暖炉をじっと見てる。たまに俺のこと見てるけど。ただ考えてるだけなのか、それとも、どうやって俺から逃げようか考えてるのか、全然わからないんだよ。
俺の手は、マヤの緩いシャツを掴んで、お腹のあたりを握りしめてる。バカだよな。話すべきじゃなかった。呪われてて、追われてて、運命に逆らえないやつに誰が縛られたいと思うんだ?マヤは人間で、俺は狼人間なのに、これじゃ、完全に終わりかもしれない。
なのに、心のどこかで、これで俺たちはもっと近づけるんじゃないかって期待してた。
大きく息を吐いて、その考えを頭の奥に押し込めた。希望ってのは、本当に呪われてる時には危険なものなんだ。希望は、お前を殺すんだ。
弟が父さんに賛成して、俺を殺すのが正しいって思った時みたいに。
父さんはよく言ってた。希望は俺たちを弱くする。決断しなきゃいけない時に、ためらいを生むんだ。そして、弟は?ローカンはためらわなかった。名前の通りなんだろうな。
だから、あいつはもう少しで勝てたんだ。
ナイフが俺の体に刺さった時の記憶が、目の奥にフラッシュする。まだ焼けるように痛い。血がシャツの前に染み込んだこと、そして、あいつが俺を捕まえて首を掴んだこと。
「父さんの言う通りだ。どっちかが死ななきゃいけない。お前だよ」
俺は瞬きして、記憶を過去に押し戻す。過去のものに。でも、俺の手の指は、体に感じる痛みにピクピクしてる。心はそれを埋めようと必死なのに。
沈黙が続く。真実の重みが、壁みたいにそこに立ちはだかってる。マヤは動いてないけど、まだここいる。あとどれくらいしたら逃げ出すんだろう?
マヤに考える時間を与えて、俺は黙ってるべきなんだろうけど、我慢ってのは俺の得意分野じゃないんだよな。
「何か言えよ、マヤ」
思ってたより低い声が出た。コマンドに見せかけた、お願いだ。マヤを抱きしめたまま。
マヤはちょっとだけビクッとした。抱きしめてなかったら、絶対気づかなかっただろうな。
大きく息を吐いて、髪をかきあげる。「何て言えばいいの?わかったって?別にいいって?だって、何も理解できないんだもん」
「別にいいって言ってくれとは言ってないよ。俺だって別に良くないし。でも、これからどうなるのか、お前に知って欲しかったから言ったんだ」俺は囁いた。「父さんの話が狼たちの間で広まってんだ。だから、ローグがいるし、俺の領地にもやつらがいるんだ」
マヤは、ついに俺を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。「もし、このメチャクチャに巻き込まれたくなかったら?」
俺は顔をポーカーフェイスに保とうとした。でも、俺の全部が、気が狂いそうなんだ。「じゃあ、お前は出て行ってもいい」
その言葉は毒みたいに味がした。
マヤは息を呑んだけど、ほんの一瞬。俺がそう言うと思ってなかったからなのか、それとも、本当に考えてるのか、わからない。マヤが去って、俺がそれを許すってことを考えると、俺の心の奥底で何かが引っ掻き回されるんだ。
実際、マヤが望んでないなら、俺には何のメリットもない。どっちにしても、俺たちは全部消滅するんだ。それがマヤの選択なら。悲しいことに、呪いがマヤを傷つけずに済むのか、俺にはわからないんだ。マヤもその一部だから、呪いはマヤを追いかけるだろうから。
少し前に乗り出して、口をマヤの耳に近づけた。「俺たちのことモンスターだって思ってるかもしれないけど、俺たちのほとんどはお前と変わらないんだ」
マヤの指は太ももを掴んでギュッとした。「違う、そんなの…」
「俺がこんなの望んでたと思うのか?思ってないし、一度も望んだことないんだ」
マヤは俺を見つめてる。ほんの一瞬だけ、俺たちは、自分たちが始めたわけでも、望んだわけでもない戦いに巻き込まれた、ただの二人になる。俺たちは二人とも、選んだわけじゃない運命に縛られてるんだ。
「じゃあ、なんでこんなこと全部話したの?」
俺はゆっくり息を吐いて、片手を顔に持っていき、もう片方の手はマヤのお腹に置いてる。「好きだろうが嫌いだろうが、お前だけなんだ、この状況を終わらせられるのは」
マヤは黙って、また視線が遠くなる。マヤの表情には何かあって、俺はすべてを疑ってしまう。予言について知った今、マヤは叫びながら逃げ出すんじゃないかって。
奇妙なことに、数秒間緊張が走って、そして、マヤの肩が落ちる。
「逃げないわ」
マヤの声は優しかったけど、雷みたいに俺を打った。息を止めてたことにも気づかなかった。ゆっくりと、落ち着いて息を吐き出すまで。
「逃げない、って?」俺の声は静かだった。
マヤは首を振った。「そう。でも、何も理解してないし、まだお前の番になるってことも受け入れてるわけじゃない。まだ、トレーニングしてほしい」
「わかった」俺は呟いた。自分でもよくわかってないし、父さんがなんでそんな解釈をしたのかもわからない。「じゃあ、トレーニング以外で、なんでここにいるんだ?」
「これからどうなるのか、知りたいから」マヤは囁いた。「私がそう感じてないって思ってるかもしれないけど、あなたに何かを感じてる。説明するのは難しいし、まだ早すぎる気がするの」
俺の自由な方の手が椅子の肘掛けに落ちて、掴んでギュッとした。マヤは、完全に拒否してるわけじゃないけど、完全に受け入れてるわけでもない。
俺たちは崖っぷちで、落ちそうになってるみたいだ。そして、それは危険だ。