第61章 - 私の服 - マヤの視点
クローゼットから出てきた彼は、別のTシャツとショートパンツを手に取ると、一瞥もせずにベッドの上に放り投げた。
「はい、どうぞ」彼はあっさりと言う。
彼は僕に背を向けて、自分のシャツを直す。こんな風に何事もなかったかのように振る舞うのが、僕の不安を募らせるんだ。すべてが簡単すぎる。
僕はベッドの上の服を見て、それから彼の寝室のドアに目をやった。頭の中はフル回転で、彼の行動をどうしても受け入れられない。この服を着ることもできるけど、何かが僕をその場に釘付けにしているんだ。
もう一度服を見て、彼が動かないからドアに目をやった。僕の部屋に行って僕の服を持ってくるもんだと思ってた。まさかこんなことになるとは。
なんで僕の服を取りに行かなかったんだ?それが計画だったし、僕が頼んだことだったんじゃないの?なのに、彼は自分の服をくれたんだ。
僕はもう一度彼を見上げた。まだ彼は僕に背を向けている。彼の動きはスムーズで、すべてがいつも通りみたいだけど、これはおかしいし、親切心からだけじゃないって気がしてならないんだ。彼が僕に服をくれたのには、何か裏があるはずだ。
僕はベッドに近づいて、Tシャツの柔らかい生地を指でなぞった。シンプルで、派手なところはないけど、それは彼の一部だ。彼が着ていたものなんだ。
そして、僕はそんなに近づきたくない。
僕はドアを見て、いっそ出て行ってしまおうかと思っている。この服を着るかどうかって、そんなに重要なことなのか?
「もう僕のこと、信じてる?」彼はまだ振り返らずに尋ねた。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。「なんで自分の服をくれるんだ?僕の部屋にはちゃんとあるのに」
彼はすぐに答えなかった。質問が数秒間、空気中に漂う。ゆっくりと彼は振り返り、その表情は無表情だ。
「君に服をあげたのは、そうすることを選んだからだ」彼は落ち着いた口調で言う。「着たくないなら、着なくてもいいけど、快適なものが欲しいって言ったし、ここにそれがあったんだ」
彼の声は穏やかで、まるで安心させるようだ。でも、彼の言い方には、すべてを疑ってしまうような何かがある。
本当にこれを着ても大丈夫なのかな?
「今夜は、僕の服を着てくれ」彼は続けた。「嫌かもしれないけど、僕はもう決めたことだから。今度は君の番だ」
「なんで?」
彼は僕の部屋と繋がっている壁を見て、「あの部屋に入ったら、俺はオオカミをコントロールできなくなるんだ。お願いだから、これを着てくれ」
僕は背中の毛が逆立つように感じた。彼の言い方からすると、彼は、あの部屋の惨状を見なくても、ここで暴走しそうなんだ。
もはやそれはお願いではない。最後通告のように感じる。
僕はベッドを見て、ゆっくりと服に手を伸ばした。手に取ったところで彼を見ると、彼の目が金色に輝いている。彼は僕を見つめていて、そこには、オオカミを抑えようと必死になっているような、何かがちらついている。
「あなたに何が起こってるの?」僕はほとんどささやくように尋ねた。「なんで部屋を見ただけでそうなっちゃうの?」
彼はゆっくりと息を吸い込み、落ち着こうとしている。「本能だよ、マヤ。俺のオオカミは血の匂いが嫌いで、あの部屋にあるものがあると、俺は限界を超えるんだ」顎が引き締まり、震えるように動く。すごく苦しんでるんだ。「お願い。今夜は、あの服を着てくれ。落ち着く時間が必要なんだ。そうすれば、ここで君を奪ったりしないから」
僕は固まった。彼の弱さ、それが力と結びついているにもかかわらず、僕の中で何かをかき立てる。同情と警戒が入り混じったような気持ちだ。でも、これは服のことだけじゃないって気がしてならない。
僕はドアを見て、出ようかと思ったけど、やめた。あの部屋で、血とオオカミだらけの近くにいることなんて考えたら、背筋が凍るんだ。少し不快だけど、安全なここにいた方がいい。
「まだ僕のこと、信じなくてもいい」彼は優しく言った。「でも、これが俺に必要なんだ。今夜だけ」
僕はもう一度服を見て、する気はないけれど、諦めた。
「わかった。着るよ」
彼の肩の力が抜け、でもその視線の強さは変わらない。「ありがとう」
彼はまた背を向ける。僕は彼が覗き見するわけがないとわかるまで、数秒間彼を見ていた。
僕はローブを脱ぎ捨て、Tシャツとショートパンツをすぐに着た。ネイビーのTシャツは膝まで届きそうで、ショートパンツはちょっと大きすぎる。何回か折り返したら、ちょうどよくなった。
着替え終わると、しばらくそこに立って、彼が振り返るのを待った。でも、彼は動かない。まるで何か考え事をしているかのように、そこに立っているだけだ。
「着替えたよ」僕はささやいた。
彼はゆっくりと振り返り、その視線は僕を上から下まで見渡し、僕を驚かせた。彼の目はTシャツに沿って下がり、暗くなる。ショートパンツはシャツに隠れていて、彼も気づいたはずだ。
彼の表情が変わり、彼は自分が目にしているものに満足しているように見える。
「着心地よさそうだね」彼はまるで途切れるように言った。
僕は頷き、自分を信じることができなかった。また心臓がドキドキしているけど、それが彼の視線のせいなのか、ただ怖いだけなのか、わからない。
「思ったよりちょっと小さかったけど、まあいいか」彼は付け加えた。
「いいわ」僕はかろうじて聞こえる声で言った。
彼は軽く頷き、金色の視線はもう一度シャツをなぞった。彼の姿勢はまだ緊張していて、何かを我慢しているみたいだ。僕たちの間に距離が不自然にある。
「よかった」彼はつぶやく。
彼の視線がようやく僕の目に再び合い、初めて、何か違うものが見えた。彼の金色の目は元の色に戻っている。まるで弱々しく見え、奇妙な考えだ。
「じゃあ、ベッドに入ろう」彼はささやいた。
僕は返事をしようと口を開いたけど、抵抗しなかった。頷いてベッドを見たのが精一杯だった。
これから面白くなりそうだ。