第58章 - 脅威 - ダミアンの視点
あいつの匂いが俺に届いた瞬間、頭に浮かんだのは、恐怖と血生臭さが混ざった香り。視界が真っ暗になって、俺は何も考えなかった。ただ、行動しただけだ。
俺のオオカミが乗っ取って、全速力で走り出す。あいつの方向に飛び出す時、筋肉が焼けるような痛みは感じなかった。
周りの景色がぼやけて、木々をかき分け、茂みをくぐり、丸太を飛び越える。筋肉は張り詰めて、いつでも動ける状態だ。ローグとヴァンパイアの匂いが濃くなり、俺の怒りを本能的なものに変えていく。
野生。
あいつを置いていくべきじゃなかった。ここに残って、サイモンに誰もボーダーに行かないって言うべきだったんだ。
ほんの少しの間でも、何かおかしいって分かってたんだ。予言も、パックも、ヴァンパイアも、全部地獄に落ちればいいのにって思ってた。マヤは俺のもので、今、あいつは危険な状態なんだ。
もっと力を入れて、俺の足は土に叩きつけられ、爪が深く食い込む。激しい唸り声が胸から響き、全身を震わせる。
視界が正常に戻り、あいつが見えた。
地面に広がって、黒い髪が土に散らばってる。ナイフは手にない。誰かに取り上げられたんだ。あいつの上には、ヴァンパイアがしゃがんでて、意地の悪い笑みを浮かべてる。あいつは勝ったと思って、あいつのこと弄んでる。
俺のものなのに。
俺から声が漏れる。それは、空気を震わせるような、恐ろしい唸り声だ。ヴァンパイアは俺が空中に飛び出した瞬間に振り返った。
俺はあいつに激突し、その衝撃で俺たちはマヤの反対側の地面に倒れ込んだ。あいつの驚きの悲鳴は一瞬だった。俺はあいつが反応する前に、あいつの喉を引き裂いた。俺の牙が筋肉を切り裂き、骨にまで達した。
腐った血の匂いが空気に満ち、俺は嘔吐しそうになったけど、止まらなかった。止まるもんか。あいつが死んだって分かるまで。
俺は引き裂き、噛み砕く。血の欲求に溺れ、あいつを脅かす奴を誰でも破壊したいって気持ちでいっぱいだった。ヴァンパイアは長い悲鳴をあげ、俺の横腹を引っ掻こうとした。痛みはほとんど感じない。たとえあいつの爪が俺の肉に食い込んでも。俺はあいつの喉に顎を当てて、引きちぎった。
あいつの体はすぐに崩れ落ちた。死んだんだ。
俺はくるっと向きを変え、金色の視線でマヤを捉えた。あいつは震える腕で体を起こそうとしてて、胸が上下してる。あいつの心臓の音が聞こえる。早すぎる。
あいつの顔には恐怖の色が見えるけど、ヴァンパイアのせいじゃない。
俺のことを見てるんだ。
俺は一歩前に進み、大きな足が土に沈む。あいつは硬直し、後ろに下がって、大きく見開かれた目は、俺の牙がまだ血を滴らせてる口元に落ちた。
マヤは震えてる。あいつはほとんど立とうとしたけど、膝から崩れ落ちて、そのまま動けなくなってる。
ついに、俺が気に入ってる頑固な態度で顎を上げた。ナイフはもうあいつの手に握られてて、強く握りしめてて、指が白くなってる。
「ダミアン?」あいつの声は、か細い囁き声だった。
俺は答えなかった。あいつが理解できる言葉で話せないからだ。俺のオオカミはまだコントロールしてて、まだ怒っていて、コントロールを保とうともがいてる。脅威は死んだのに。
戻らなきゃ。
深呼吸をして、オオカミに自分の意志を押し付け、手放させた。俺の体は砕け散り、再構築される。骨が折れて、再形成され、筋肉がねじれ、皮膚が伸びる。変身は過酷だけど、俺は痛みを受け入れた。
俺が立つと、再び人間になった。裸だ。息苦しい。でも、まだ危険だ。
あいつは俺を見つめ、手に持ったナイフが震えてる。
「ケガは?」俺の声は荒々しく、人間らしくない声だった。
俺はあいつが立つのを手伝おうと手を伸ばしたけど、あいつはひるんだ。その動きは小さかったけど、俺の中のすべてを打ち砕いた。
「あいつらはお前を連れて行きたかったけど、俺はさせない。俺と一緒なら安全だ」
あいつは息を吐いた。「あなたが殺した瞬間に分かったわ」
俺は近づき、ほんの少し、あいつの鼓動が跳ねるのが見えるくらいの位置に立った。俺の存在すべてがあいつに触れたいって求めてる。せめて腕だけでも。でも、あいつはまだ震えてる。「お前は、このことから逃げられない、マヤ。生きては出られないぞ」
あいつの唇が開きかけたけど、何か言う前に、新しい匂いが俺に届いた。俺が殺したやつは、一人じゃなかったんだ。
あいつらは近い。俺は振り返り、後ろを向いた。俺の体は緊張して、いつでも動ける状態だ。そして、森の中から声が聞こえた。
「いつまでも助けられるわけじゃないぞ、オオカミ」
影が前に出てくる。その動きはゆっくりと、慎重だった。ヴァンパイアは背が高く、エレガントで、大理石で彫られたみたいだ。その目は磨かれたサファイアのように輝いてる。
「ダミアン」あいつは甘く言った。「君が現れるのを待っていたよ」
俺は歯をむき出し、爪がまた変身したいってうずく。「お前の友達みたいに、引き裂かれる前に、逃げる時間は一瞬だ」
あいつの目はあいつの体に落ち、肩をすくめる。「物騒な言葉だね。でも教えてくれ、アルファ。君は、君が倒れるのを見たい連中から、どれくらいの間、彼女を守れると思ってるんだ?」
俺はあいつらの間に立ち、あいつは笑った。
それから笑みが広がり、二つの鋭い牙が現れた。「彼女はいい匂いがする。隠しておきたいのも当然だ。でも、俺たちは分かってる。永遠に彼女を守ることはできないって。誰かが彼女を奪うんだ」
「俺はできるし、そうする」俺は唸った。
ヴァンパイアは楽しそうに頭を傾げた。「自分自身からも?見てみろよ、ほとんどコントロールできてないじゃないか。あいつは彼女に印をつけて、殺せるんだぞ、全部君の知るところだよ。落ち着けよ」
俺の体は硬直した。あいつがなんでそんなこと言ってるのか分からないけど、関係ない。そんなことはさせない。
俺があいつを殺すために突進しようとした瞬間、あいつは消えた。
「短気だね、オオカミ」あいつは小言を言った。「近いうちまた会おう。これは終わらない。そして、君は計画されていることに耐えられないだろう」
あいつの言葉が近くからこだまし、あいつは去った。その後に続く沈黙は緊張で重かった。俺の心臓は激しく鼓動し、俺のオオカミは再び乗っ取ろうとしてる。