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ルアナは全然音を立てなかった。
窓の方を見て、その女の子は心の中で独り言を言ってた。
将来、どうやって生きていくんだろうって考えてたんだ。だって、もう正式にレイ・ルイック夫人の仲間入りだよ?
街で一番尊敬されてる貴族の一人なんだから。
まさか、自分が今日の結婚式で、あの人の指に指輪をはめることになるなんて、ルアナは全然思ってなかった。
自分がやるべきことじゃなかったんだ。絶対に。
でも、ベアトリスの失踪で、全部めちゃくちゃになって、ルアナは仕方なく、雇い主の息子の身代わりの花嫁になっちゃったんだよね。
マダム・コリンズが、ベアトリスがいなくなって、二つの家の評判が危うくなってるって、辛そうな顔で見てたから、断るのも失礼だったし。
ルアナにはもう選択肢はなかった。
何があっても、大人になるまで面倒を見てくれたコリンズ家の優しさには、恩を感じてた。
急に、過去の記憶が蘇ってきて、ルアナは思わずゾッとした。
レイは、その女性をチラッと見た。
不機嫌そうな顔は全然変わらなくて、黙ってた。
人々の軽蔑から、ベアトリスが彼に残した深い痛みから、隠れてたんだ。
レイが、ベアトリスが満面の笑みで彼を迎えるって想像してたのに、まさかこんなことになるとは、誰も思ってなかっただろうね。
でも、実際は振られたんだ。振られただけじゃなくて、情け容赦なく捨てられたんだよ。
「あの、旦那様。」
ルアナの低い声が、レイの空想を邪魔した。
そして、レイも左をチラッと見た。
目が合った瞬間、ルアナは息を呑んで、ずっと考えてたことを質問しようとした。
若いマスターが怒るかもしれないけど、どうしても確認しておきたかったんだよね。
「なんだ?」
レイはあっさり答えた。
今まで男の人と話すことには慣れてなかったけど、ルアナは、今のレイ・ルイックの声で、彼が怖いってことはよく分かった。
彼の声は重くて、冷たい感じがして、ルアナと話す気はなさそうだった。
まるで、隣に座ってる女性は生きてないみたいに。
「あの、その…」
ルアナは言葉に詰まって、もじもじしながら、そこで何気なく絡み合ってる指をぎゅっと握った。
「ちゃんと話せよ。」
レイはすぐに遮った。「待つの嫌いだし、お前のせいでマジで時間無駄にしてる!」
ルアナは息を呑んだ。
急所を突かれた感じだった。
あの人がルアナの薬指に指輪をはめてから、まだ数時間しか経ってないのに、レイはもう二人の間に分厚い壁を作ってた。
ルアナが越えられない壁、ルアナの人生と彼の人生を隔てる壁だよ。
「あの、どこに行くんですか?」
ルアナは、その数少ない言葉を言うだけでも、喉が詰まりそうだった。
レイは、まるでルアナの質問に全然関心がないかのように睨んだ。
「余計なこと聞くな。黙ってついてこい。」
レイはきっぱりと言った。
反論はなし、命令だけだった。
まだ作り笑顔じゃない冷たい口調で、レイは深呼吸した。
もう一度頭を向けると、レイは今度はルアナの目が意図せず瞬いているのを見た。
彼女はまだ若すぎるよ、特に、彼女の体に貴族の血が流れてないんだから。
幸い、マダム・コリンズが親戚の子だってことで、同僚に紹介してくれたから、ベアトリスに比べればあれだけど、立場はまだ保てる。
もう答えるのをやめて、ルアナは黙って、何も返事も反論もしなかった。
窓の外に視線を戻して、レイを邪魔したくなかったんだよね。
同じ場所にいるのに、レイは絶対に自分をここにいたくないって思ってるって確信してた。
旅行から約40分後。
高級車は、高いフェンスのある豪邸の一つに入り、ルアナはさらに警戒心を強めた。
よく見てみると、ここは有名なルイックさんの家かなって思った。
2人の灰色の制服を着た警官が開けたフェンスを通り過ぎると、ルアナは今入ろうとしている屋敷をはっきりと認識した。
豪華っていう言葉だけじゃ、この家を表現するには足りないかも。
ルアナは建物の大きさ、広さにほとんど圧倒されてた。
真ん中には噴水があって、いろんな装飾がされてる。
右と左には花が咲き乱れる庭が見えて、しばらくすると車はスピードを落とした。
ルアナは困惑した。
どうすればいいのか分からず、数人の若い男が近づいてきて、彼らのためにドアを開けるのを見た。
1人はルアナの側に、もう1人はレイの側に。
その男、ルイックは、ルアナを全然見てない。
真っ直ぐに立って、彼はきっぱりと言った。
「降りろ。マーレが案内してくれるから、準備しろ。」
ルアナは不安そうに唇を噛んだ。
準備?何のために準備するの?
レイが席から立ち上がろうとしたとき、ルアナは突然彼の腕を掴んだ。
レイの目が大きくなって、反射的にルアナの腕を無慈悲に振り払った。
「触るな!」
レイは高い声で怒鳴った。
ルアナは息を止めた。
ただ聞きたかっただけなのに、どうしてこんなに反射的に、レイが先に去るのを阻止したかったんだろう。
「す、すみません、旦那様。」
その貴族は苛立ちを露わに鼻で笑った。
彼女は疲れ果てていた。
少しどころじゃないくらい心が壊れてた。
ベアトリスの不在は、すでに彼の頭を爆発寸前まで追い込んでいて、彼は今、その女性を追跡するために、最高のチームからの連絡を待っているんだ。
まだ座っているルアナには全く構わず、レイは先に立ち上がった。
その男は大きな足取りで屋敷に入り、続いて髪をきれいに整えた若い男が続いた。
その若い男は、レイの警備チームのリーダーである事を示す、違う色の制服を着ていた。
「全てキャンセルしましょうか、旦那様?」
ジョヴィ(その若い男)の声が、新婚のレイの鼓膜を突き刺した。
歩みを緩めることなく、レイは静かに喉を鳴らし、まるで素早く考えているようだった。
深呼吸をして、その男はそれから言った。
「いや。」
彼は言った。「予定通り進めて、その女も連れて行け。」