70
シーン…
2びょう。
5びょう。
10びょう。
そして、**ルアナ**がそっとせきばらいをして、たった今、旦那さんにばらしたことをくりかえしたんだ。
ビンタでもいいよ。もし今すぐ追い出したいなら、すぐ出ていく。でも、自分にウソはつけない。もう**レイ・ルイック**のこと、大好きだって。
「わたし、ロイヤルファミリーの血なんて、ほんのちょっとも入ってないの、**レイ・ルイック**さん」って、**ルアナ**はさらに説明した。
**レイ・ルイック**が抱きしめるのをやめるべき説明だったんだけど、数秒前には。でも、**レイ・ルイック**はまだ**ルアナ**を強く抱きしめてて、黙ったままだった。
**レイ・ルイック**は、**ルアナ**が「~さん」って呼び方をしたとき、心臓が止まりそうになったんだ。さっきまで気軽に話して、彼の誇り高い名前を口にしていたのに。
「ここにいるべきじゃないし、あなたの目を見るべきでもないわ」って、**ルアナ**の声が暗い部屋に響いた。「何も持ってないし、こんなふうにあなたに近づく資格もないの」
目にたまってた涙が、そのまますべり落ちてきた。まばたき一つで、必死にこらえてたのに。隠してたことを全部ばらしちゃったから、もう人生に何も残ってない。
**レイ・ルイック**の怒りは、彼女が受け取るべきごほうびだった。**レイ・ルイック**みたいな貴族の人生に巻き込まれたのは、彼女のせいじゃないのに。
**ルアナ**の体は、聞こえてくるすすり泣きと一緒に震えていた。**レイ・ルイック**が、彼女が今ドラマを演じてるなんて思わないようにと願ってた。**ルアナ**の心は本当に傷ついてて、これから何が起きても受け入れる覚悟だった。
「わたしは、あなたが思ってるような人じゃないの」って、**ルアナ**はまた言った。もう隠す理由はない。だって、今こそ**レイ・ルイック**は、彼女が本当は誰なのかを知る必要があるんだから。「**マダム・コリンズ**の親戚でもないし、彼女の屋敷の召使いなの」
言葉はすごくはっきりしてたけど、**レイ・ルイック**は抱擁をゆるめたりしなかった。その男は**ルアナ**をもっと近くに引き寄せたんだ。まるで、彼女の悲しみや苦しみを分かち合いたいかのように。
「やめて、**ルアナ**」って、**レイ・ルイック**は**ルアナ**の耳たぶに唇をつけながらささやいた。「お願い、やめてくれ」
「あなたと一緒にはいられないわ」でも、**ルアナ**はその貴族の願いを聞き入れなかった。「たとえ世界が滅びようと、**レイ・ルイック**。あたしとあなたは一緒にはなれない。あなたの目を見る権利さえ、あたしにはないのよ?」
涙はもっと早く流れ始め、そのあと**ルアナ**の小さな体が震え始めた。旦那さんの腕の中で。すすり泣きは部屋いっぱいに響き渡り、悲しみの涙で**ルアナ**の顔は赤く濡れた。
抱きしめてた女性の体を返して、**レイ・ルイック**は**ルアナ**と向かい合い、彼女の目を見た。でも、その女性はまだうつむいてて、**レイ・ルイック**の視線を受け止めることができないみたいだった。
怖かったんだ。
**レイ・ルイック**が彼女を違うふうに見るのが怖かったんだ。
彼は、温かい抱擁をゆるめて、彼女を道に放り出すかもしれない。それが怖かったんだ。
本当に怖かったんだ。
「分かってる、**ルアナ**」って、**レイ・ルイック**はすごく低いトーンの声でささやいた。「分かってるんだ。君が本当は誰なのか、分かってる」
何千本もの針で同時に刺されたみたいに、**ルアナ**は今までになく、ものすごく痛い痛みを感じた。手の甲で涙を拭って、彼女は浅く息をした。
「あたしを見て」って、**レイ・ルイック**は求めた。「**ルアナ**、あたしの目を見て」
**ルアナ**には、逃げ場はなかった。彼女の背中の肌の上で、今やしっかりと感じられる**レイ・ルイック**のつかみが、彼女に少しずつ顔を上げさせ、**レイ・ルイック**ほど名誉ある人の目を見る勇気を振り絞ったんだ。
「…できない」たった一瞬後、**ルアナ**はまた視線を落とした。「できないの」
**ルアナ**は、この事実を明かしたことで、もっと傷つくだけだと思ってたなら、それは間違ってた。だって、**レイ・ルイック**の心はすでにたくさんの石で満たされていて、それが彼をむしばんでたから。一方、その男は、まだ自分を強く保とうとしてたんだ。
運命に屈することなく、今直面してる状況に屈することなく。
「**ルアナ**、お願いだよ」って、**レイ・ルイック**の声は甘くて、**ルアナ**はもう今回以上のことは期待しちゃいけないってことを、ほとんど忘れそうになった。「お願い、あたしを見てくれ」
**ルアナ**は、旦那さんのお願いを聞き入れた。彼女の頭が上がって、**レイ・ルイック**の青みがかった虹彩と視線が重なったんだ。彼が愛した虹彩、世界の何十億もの虹彩の中で、彼が崇拝した虹彩だったんだ。
「全部知ってるよ」って、**レイ・ルイック**はすすり泣きながら言った。「君にとってつらいだけじゃなくて、あたしにとってもつらいんだ、**ルアナ**。あたしたちをこんなクソみたいなカースト制度で区別するのを、宇宙にやめさせてほしいよ」
ゾッとする。それが、**レイ・ルイック**の声から**ルアナ**が感じたこと。そこには絶望があった。深い混乱も伴ってたんだ。
**ルアナ**は唇を固く閉じることにした。だって、もう彼女らに逃げ道はないってことを知ってたから。
「君を手放したくないんだ、**ルアナ**」って、**レイ・ルイック**は話し始めた。「ここにいてほしいし、誰も君の代わりになってほしくない。あたしの奥さんになってほしいし、ルイック家の素晴らしい女性になってほしい。あたしは…」
「いいえ、**レイ・ルイック**」って、**ルアナ**はさえぎって、首を振った。彼女のつぶらな瞳がにらみつけ始め、奥底まで傷つく落胆が燃え上がった。「そんなことできないって、分かってるでしょ」
**レイ・ルイック**は苛立ちながらうなったけど、**ルアナ**への抱擁を少しもゆるめなかった。
だって、**レイ・ルイック**も怖かったんだ。
**ルアナ**が抱擁をゆるめたら、本当に去ってしまうんじゃないかって怖かったんだ。
彼女の顔をもう二度と見られなくなるんじゃないかって怖かったんだ。
**ルアナ**が彼から去ったら、また一人ぼっちになるんじゃないかって怖かったんだ。
もう二度と奥さんに会えなくなるんじゃないかって怖かったんだ。
「お願いだから、あたしを見捨てないで、**ルアナ**」って、**レイ・ルイック**は懇願した。「全部乗り越えられるって信じて。あたしを信用するって約束したんじゃない?」
**ルアナ**の心は沈んだ。自分たちに何が待ち受けてるのかを考えたから。結局、違うカーストの人たちの関係なんて、決して本物にはなれいんだから。どこに逃げればいいの?どこに向かえばいいの?
「できないわ、**レイ・ルイック**。できないの」って、つかんでいる理由はなかった。特にこの立場は、彼の主人に属するものなんだから。「お願い、あたしを解放して」
「しない」って、**レイ・ルイック**は今回は断言した。若い女性の額を包み込み、**レイ・ルイック**は、彼女の青みがかった瞳から涙を一つこぼした。「どんなことがあっても、君を手放さない。聞こえるか、**ルアナ**?君は決して行けないんだ」
わがままが、**レイ・ルイック**に**ルアナ**にしがみつかせてた。**レイ・ルイック**は、これから待ち受けるものが、奥さんを傷つけるって知ってたんだけど。**ルアナ**はまたすすり泣き、今は**レイ・ルイック**の涙目の瞳を優しくこすった。
その男は、彼女のために泣いてた。貴族が、彼女の卑しい手を強く握っていたんだ。
「泣かないで」って、**ルアナ**は唇の端を無理やりつりあげて懇願した。「あたしみたいな召使いのために泣く資格はないわよ」
「君はあたしの奥さんだ!」って、**レイ・ルイック**はすぐに返した。「君は**ルイック**夫人だし、いつまでもそうなんだ。聞こえるか?」
**レイ・ルイック**の声には絶望の響きがあった。**ルアナ**は、あいまいな首を振ることしかできなかった。この状況にあきらめるのが、たぶんもっといい。たとえ彼女の心臓が引き裂かれるような思いだとしても。
「もう、あたしを解放して、ご主人様」
「あたしはあなたの主人じゃない!」**レイ・ルイック**はまた怒鳴った。彼の胸の中にこみ上げてくる怒りをどうしたらいいのか分からず、声を荒げた。「あたしはあなたの旦那なんだ、**ルアナ**!あなたの正当な旦那なんだ!主人って呼ぶのはやめてくれ!もううんざりだ!」
大声で叫びたい。**ルアナ**を連れて行って、安全だと感じさせてあげたい。**レイ・ルイック**が気づかないうちに、彼の高いトーンの声が**ルアナ**に数秒間目を閉じさせたんだ。
「ごめんね、ハニー、ごめん」って、**レイ・ルイック**は奥さんの頬をなでた。「大声出してごめん」
**ルアナ**は何を言っていいのか分からなかった。だって、彼女の心は麻痺してたから。全部うそみたいに感じたんだ。**レイ・ルイック**は何かを与えてるようだったんだけど(たぶん)。でも、低いカーストの人間の**ルアナ**は、希望のかけらさえ持ってないってことを知ってた。
「お願いがあるの」って、**ルアナ**は少しの間沈黙の後、ささやいた。「あなたへの最後の願い、叶えてほしいわ」
**レイ・ルイック**はためらいながら首を振った。**ルアナ**がまた別れを求めてくるんじゃないかって心配してたんだ。そんなことはできない。その男は、**ルアナ**が頼んだものを与えることができなかったんだ。
「別れだけはやめてくれ」って、**レイ・ルイック**は答えた。「何を頼んでもいいから、手放してくれって言うのはやめてくれ」
**ルアナ**は、希望に自分を抱きしめさせたくなかったんだ。だって、またうまくいかないってことを知ってたから。決して。
たった一度だけ。もう一度だけ。
もっと近づいて、**ルアナ**は**レイ・ルイック**の唇にキスして、数秒間そこにいた。抱きしめずに、ただキスしただけ。愛と深い悲しみが流れ込むキスだった。
「ハニー」
「今夜はあなたの腕の中で眠らせて」って、**ルアナ**はささやいた。「もう一度だけ、本当にあなたの腕の中で眠りたいの」
二人の心臓には、何かが波打った。彼らの温かい抱擁で、もっと広く開いた大きな傷ができたんだ。
**ルアナ**は、貴族の広い胸に頭を預けて、すべての悲しみをかき消そうと目を閉じた。すべてが夢で、あとで目が覚めたら、これは現実じゃないようにと願ってたんだ。
目を閉じ始めた奥さんを支え、**レイ・ルイック**は、様々な感情の中で**ルアナ**を強く抱きしめた。できるだけ優しく髪をなでながら、**レイ・ルイック**は奥さんの耳元でそっとささやいたんだ。
「愛してるよ、**ルアナ**。愛してる」