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「全部ちゃんとケリつけないと、でしょ?」
レイ・ルイックの声が、ここ数十分過ごしてる書斎に響いた。ソファーに寄りかかって足を組んでるレイは、なんか考えてるみたいで、時々ジョヴィに話しかけてた。ジョヴィも同じ場所にいた。
ジョヴィは今日の午後に到着したばっかりで、すぐに今夜、ルイック邸でレイと会うように言われたんだ。
レイが何を言ってるか、これ以上聞く必要はなかった。ジョヴィは、レイが話してる話題がベアトリスのことだってことは、もう分かってたはずだ。
「電話かかってきたんだけど、出られなかった」レイはそう言って、右手で持ってる冷たいビールの缶を振った。「いや、出られなかったんじゃなくて、出たくなかったんだ。あいつのこと、もうマジで嫌なんだ」
ジョヴィは小さくため息をついて、膝の上で指を組んだ。自分のミスは致命的だったかもしれないけど、もうこうなっちゃったんだから仕方ない。数時間遅れただけで、こんな面倒なことになっちゃうなんて。
「ちゃんとけじめつけないと、ですよ」ジョヴィはそう言った。「チャンス、与えないって決めたんじゃなかったですか?」
レイは軽く頷いて、ジョヴィに一瞬視線を向けた。ジョヴィは真剣な顔をしてレイを見てるみたいだった。テーブルに置いてあったスマホを取って、レイはジョヴィに渡した。イケメン秘書はすぐさまそれを受け取った。
「読んで」
ジョヴィは画面に視線を向けた。返信なしで表示されたチャットルームを見て、ゆっくりと読み始めた。
ベアトリス:「ただいま、ダーリン。大変な時期だって聞いたわ。話したいことがたくさんあるから、明日会える?」(今日、午後6時32分)
レイはただ読んでるだけで、全く返信しない。
ベアトリス:「会いたいでしょ、レイ。時間が必要なのね。分かったわ。待ってるから。でも、私のこと、楽しみにしてるんでしょ?」(今日、午後6時40分)
やっぱり返信なし。
ベアトリス:「明日、あなたの家に行くわ、レイ。ルアナのことについて、あなたを驚かせるかもしれないことがあるの。全部説明するから、レイ、仕事は何時に終わるか教えて。会えるの楽しみにしてるわ」(今日、午後7時17分)
ベアトリス:「何があっても、必ず連絡するわ、ダーリン。どんなことだってするわ。私ならできるって知ってるでしょ?すごく会いたい」(今日、午後7時30分)
最後のメッセージを見て、ジョヴィはちょっとゾッとした。ベアトリスがもし、自分がもう望まれてないって知ったら、何をするか想像しちゃったんだ。
レイが、身分の低い使用人ルアナを側に置くことを選んで、貴族のベアトリスよりも、って知ったら、どうなるんだろう。
でも、世の中そんなに単純じゃないんだよな。
「あいつ、来ると思う?」レイは静かに尋ねた。「会うべきか、会わないべきか、ジョヴィ?」
ジョヴィはまたスマホをレイに差し出して、今回は、雇い主に最高の助言をしてるか、ちょっと考えた。
「もう決めてるんでしょ、レイ?」ジョヴィはそう聞き返した。
レイは夢見るような顔をして、唇の端を少しだけ歪ませた。「ベアトリスに会って、ちゃんと一線を引かないと、だな、ジョヴィ」
ジョヴィは同意して頷いた。ベアトリスと話すのが一番いいかもしれない、もし本当に奥様がルアナを選んでるなら。もちろん、色んな結果はあるけど。
「でも、ベアトリスにルアナに会わせたくないんだ」レイはそう言って、前に進み、ちょっと目を回した。「ベアトリスが来たら、ルアナはここにいちゃダメだ。ルアナがどこにいるか、あいつにバレたくないし、ルアナが本当に誰なのか、屋敷全体に暴露して、騒ぎを起こして欲しくない」
ジョヴィはもちろんなんも知ってて、レイと同じように、口をつぐむように言われてた。
「ルアナを屋敷から出すようにってことですか?」ジョヴィは推測した。「数日隠して、この状況が良くなるまで?」
レイはそれを考えたことはなかったけど、もっともな提案だった。ベアトリスの行動は知ってるし、もし2人が後で顔を合わせたら、レイはルアナに恥ずかしい思いをさせたくなかった。レイはルアナの心を傷つけたくなかったし、ベアトリスの口から出るかもしれない、辛い言葉を聞かせたくなかったんだ。
2人が会わないのが、両方のためには一番いいんだ。
「ルアナを数日、隠しておけ、ジョヴィ」レイは今そう命じた。「安全で快適で、何も心配がないようにしてやれ。全部頼む。後で、俺があいつと話すから。何か起こるのを避けるために、ただ安全だと感じてほしいんだ」
ジョヴィは頭を縦に振って、何をすればいいか分かった。ルアナを隠すのは難しいことじゃないし、きっとベアトリスは後でルアナの匂いすら嗅ぎつけないだろう。
***
「ルアナ」
レイは、ルアナが布団をめくろうとしてる時に近づいてきた。ルアナは振り返って、仕切り戸の向こうにレイがいるのを見つけた。
「ん?」
「話したいことがある」レイは言った。近づいてきて、レイは奥さんのベッドの端に座るのに、ルアナの許可を待たなかった。「寝るの?」
ルアナは軽く首を振って、ほどいた髪をすくった。あの美しい髪をもう一度結び直して、ルアナはレイを見上げた。
「まだ、全然眠くない」「何?」
レイは指を握ってから、静かに話した。言いたいことを吐き出したんだ。
「ベアトリスが明日来るんだ」レイは隠さずにそう言った。「たぶん、会わないといけないと思うし、外で会うよりは、ここがいい」
ルアナはウインクして、レイの話を聞いた。
「会わないといけないんだ、ルアナ」レイは数秒間下を見て、許可を求めてるみたいだった。「全部説明して、将来、あいつが来て、俺たちの生活を邪魔しないようにするために」
「俺たち」って言葉を聞いて、ルアナは本当に心が温かくなった。思わず笑顔になった。
「お前にあいつに会って欲しくないから、明日ジョヴィと一緒に出かけて、どこかで泊まってくれ」レイはそう言った。「数日だけ、ベアトリスとコリンズ家との用事が終わるまで。意味分かるでしょ?」
ルアナは数秒考えてから、頷いた。ありがたいことにレイはベアトリスと対面しないように頼んでくれた。自分には、そんな勇気はなかったから。自分は弱すぎるし、ベアトリスは超能力を持ってるような人だったんだ。
「もしそうしたいなら、そうする」
予想外に、ルアナは簡単にレイの頼みを聞いた。ルアナは何も聞かなかったし、ただ同意して頷いた。
「ありがとう、ルアナ」レイは嬉しそうに笑った。「明日はホテルを楽しんで、バケーションだと思って、何も考えないで。できる?」
「うん、そうする」
レイはもう一度頷いて、数秒後には安堵のため息をついた。すべてうまくいくみたいだし、あんまり心配しなくてよさそうだ。
「もう寝かせてあげるよ」レイは今回そう言って、ルアナのベッドに近づいて、奥さんを支えるために腕を伸ばした。「横になって」
ルアナはまた断らず、代わりに嬉しそうにレイの頑丈な腕の上に横になった。目が合って微笑んだ後、ルアナはレイが額にキスをしてくれた時、目を閉じた。
おやすみのキス、明日にはしばらくの間、離れ離れにならなきゃいけない前に。