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ライプチヒに戻るってことは、タイムスリップみたいなもんだ。
少なくとも、レイ・ルイックはそう感じてるみたい。だって、最後に地元に足を踏み入れたのがいつだったか、もう覚えてないんだもん。
18歳になる前に家を出るって決めてから、レイ・ルイックはすっごい色んな経験をしてきたんだよね。勇気づけられるようなさ。
ルイックっていうすごい苗字を持ってるのに、レイ・ルイックのビジネス帝国とか、今の財産のほとんどが、彼自身の努力の結果だって知らない人も多いんだよ。
レイ・ルイックはお父さんのライアン・ゲーテ・ルイックから何百万ドルか借りて、それで最初のビジネスを始めたんだ。色々あったけど、レイ・ルイックは自力で立派になったんだよね。
ライアン・ゲーテ・ルイックに借りたお金は、3倍にして返したんだ。その時は、肩をポンポンって叩かれて褒められたんだ。
励ましのポンポン、そして誇りのポンポン。
そして、ライプチヒに戻ることで、レイ・ルイックはあの時のことを思い出したんだ。すべてを捨てて出ていくって決めた瞬間を。
「どこに行くの?」
ルアナの声が聞こえた。ルアナはレイ・ルイックの方を見て、チラッと視線を送った。
ルイックの家を出た後、レイ・ルイックは車を飛ばして、車でいっぱいになり始めた街を走った。
「もうすぐだよ」レイ・ルイックは前を見たままで答えた。両手でハンドルをしっかり握ったまま。「ライプチヒの本当の顔を見るだろう。近代化が止まらないのに、この街の人々が平和に暮らしてる様子をね」
ルアナはレイ・ルイックの答えが何を意味するのかまだ分からなかったけど、今回は黙っておくことにした。ルアナは集中できなくて、頭も全然働いてなかった。さっきのパトリシアとの会話のことがまだ頭に残ってたから。
ルアナは心の中で、この旅行がこれ以上、感情も精神力も奪いませんようにって願ってた。本当にリフレッシュしたかったんだよね。
レイ・ルイックは右に曲がる直前に、車のスピードを落とした。数分間直進して、ついに目的地に着いた。
車が止まった時、ルアナは無意識にフロントガラスを通して、目の前にある大きな建物を見た。
「ここに行くの?」
レイ・ルイックはシートベルトを外して、ゆっくりとうなずいた。「ほら、多分待ってるよ」
ルアナはレイ・ルイックの動きに素早く従った。どうやら、レイ・ルイックは時間を無駄にしたくなかったみたい。
ほぼ同時に車から出て、レイ・ルイックはルアナに入り口に向かって歩くように促した。
「ここは、ライプチヒ・グランデ・ホールだよ」レイ・ルイックは説明した。「ミュンヘンにも貴族の社交界があるでしょ?それで、今からこの街で一番有名な貴族の社交界に会うんだ」
ルアナは信じられないって顔で目を見開いた。まさか、レイ・ルイックがこんな場所に連れて行ってくれるなんて思ってもなかったから。
もちろん、ルアナも貴族の社交界のことは知ってたよ。ベアトリスと一緒に、数年前に貴族の学校に行った時にね。でも、自分がそんな集まりに会うことになるなんて、考えもしなかったんだ。
「あー、なるほど」ルアナは驚いた顔を隠そうとして、あたりを見回した。
レイ・ルイックは嬉しそうに、またルアナの手を掴むチャンスをうかがった。もう許可を求める必要はないって感じだった。
「気に入ると思うよ」レイ・ルイックはドアノブに手をかける前に言った。「ライプチヒの貴族の社交界へようこそ、ルアナ」
ドアが開くと、ルアナの目は、何十人もの人でいっぱいの広いホールを目にした。
色んな風に飾り付けられてて、ホールにはいくつかの異なるエリアがあった。床まで垂れ下がった布がかかった長いテーブルがいくつかあって、そこには色んな料理が綺麗に並べられてた。
入り口に新しい人が来たのを見て、そこにいたライプチヒの貴族たちは、突然レイ・ルイックとルアナに注目した。
ほとんどが、レイ・ルイックの子供の頃からの友達で、この街に残って成功した人たちだった。レイ・ルイックみたいにミュンヘンに引っ越した人もいたけどね。
「グランデ・ホールへようこそ、ミスター&ミセス・ルイック!」と、黒い髪をそのままにしている女性が叫び、ルアナには少し熱すぎる歓迎だった。
何組もの視線が、昨夜みたいに、二人に向けられた。ルアナはこれに備えてたから、もう気まずくならないように自分をコントロールできたよ。
「ありがとう、ルレッタ」レイ・ルイックは嬉しそうに挨拶し、大理石の床を歩いた。「長く待った?」
何人かの友達も近づいてきて、結婚のニュースも一緒にもたらした旧友を歓迎した。レイ・ルイックの友達に順番に挨拶して、ルアナは笑顔が止まらなかったよ。
またもや、ごまかしに入って、絶対にミスしないようにしたんだ。
「結婚おめでとうございます、ルアナ・ルイックさん」ルレッタは嬉しそうに、右手に持っていた飲み物を差し出した。「ルレッタです。はじめまして。ミュンヘンと同じくらいライプチヒを楽しんでくれると嬉しいわ」
レイ・ルイックが男の人たちのところに合流したので、ルアナはグラスを受け取った。美しい身なりの貴婦人たちだけが残された。
もちろん、彼らはレイ・ルイックと同じレベルの、ライプチヒの上流階級の貴族だったんだ。
「ありがとう、ルレッタ」ルアナは明るい笑顔で答えた。「本当に嬉しいわ。ライプチヒはミュンヘンより寒く感じるから」
ルレッタは心優しい貴族で、親友のレイ・ルイックの結婚を心から祝福したんだ。
ルアナに他の貴族たちの群れから離れるように促し、ルレッタはレイ・ルイックの奥さんを案内するのが楽しかった。
「ミュンヘンのあなたの社交界が一番素晴らしいに違いないわ」ルレッタはとても優雅な足取りで言い、ルアナと一緒にグランデ・ホールをゆっくりと歩いた。
二人の美人は二人とも飲み物を持ちながら、とても楽しい会話をしてるみたいだった。
「ミュンヘンにも行ってみたいわ」ルレッタはまた言った。「でも、レイ・ルイックとは連絡が取りづらいし、友達もいないの。今こうして知り合えたんだから、いつかルアナに会いに来てもいい?」
ルアナは何て言えばいいのか分からなかったけど、断るのは正しくないって感じた。結局、ルアナはうなずいて、美しい顔に別の笑顔を浮かべた。
「もちろん」ルアナは熱心に言った。「いつでも来てね。レイ・ルイックも私も、喜んで歓迎するわ」
ルレッタは、特にルアナが謙虚な貴族だと分かって、とても嬉しそうだった。
「今度ミュンヘンに行くことがあったら、ルアナ、あなたの社交界に一緒に行ってもいい?」
今度は、ルアナが小さく息を呑み、それから歩みを遅くした。
ルアナには本当に無かったんだ!それって、どんな組織?本気で言うけど、ルアナにはないのよ!クラブはあるけど、コリンズ夫人の使用人たちのクラブよ!
「ミュンヘンの貴族の社交界の役員をしている友達がいるの」ルレッタはまた言い、歩みを遅くした。「でも、あなたのと一緒の社交界かどうかは分からないわ」
ルアナは実際にそこで止まり、ルレッタをまっすぐに見つめた。ライプチヒの貴婦人も歩みを止め、困惑したようにルアナを見つめた。
「実は、私…」ルアナはつっかえた。「まだ社交界には入ってないの」
今度はルレッタが信じられないって顔でショックを受けた。完璧に大きく見開かれた瞳がそれを物語ってる。
「本当に?レイ・ルイックは、男の人たちがあなたに目を奪われるのを心配して、あなたが参加するのを禁じたの、ルアナ?」
ルアナはルレッタが冗談を言ってるだけだって分かってたから、にやりと笑った。
「うーん、そうじゃないわ。最近までミュンヘンに引っ越してなかったし、自分に合うクラブを選ぶ機会がなかったの」ルアナは事実を淡々と答えた。
それが嘘だ。嘘に浸かると、他の嘘を作るのが上手くなるんだよね。
ルレッタは通りかかったウェイターを追い払い、持っていたグラスを急いでトレイに置いた。
意図的に両手を空にして、ルアナの側を少しの間離れる許可を求めた。「ここで待ってて、ルアナ。すぐ戻るわ」
ルアナは黙っているしかなく、ルレッタがどのテーブルに走って行ったか、そしておそらくその女性のバッグをつかみ、その中を探ったかを、目の端で見てた。
ルアナが待っていると、ゆっくりと持っていた飲み物を一口飲んだ。レイ・ルイックは男たちの群衆の中にいて、何について話してるのか分からないけど、会話をしてた。
「ルアナ、どうぞ」ルレッタは戻ってきて、ルアナの目の前に名刺を突き出した。
名刺を掴み、ルアナはそこに印刷されてる情報を読んだ。
「私たちみたいな高貴な人間は、仲間がいないなんてことはありえないわ、ルアナ」ルレッタは警告した。「レイ・ルイックは、あなたが他の貴族と集まることを喜ぶでしょう。それは、彼のビジネスを拡大するのにも役立つから」
ルアナはかすかにうなずき、ルレッタに優しい笑顔を向けた。ルアナは、その女性に良い意図があることを知ってて、それに感謝してたんだ。
「それは、さっき言った私の友達の名刺よ」ルレッタは続けた。「いつでも彼女に連絡できるわ。そして、もしそのクラブがあなたに合ってるなら、彼女とも良い友達になれるかもしれないわ」
ルアナはまだ名刺を手に持ったままで、何も言わなかった。
ルアナの目は、カードに刻まれた一つの名前にまっすぐ向いてて、それをゆっくりと静かに読んでいた。
「ヴァレリー・ジェネス」