第40章 生命の領域
「あーあ、もうどうしようもないね。ボクは弱っちいから、あのちっちゃい神様の力をちょっと借りるのが精一杯だよ。ま、あいつの貢献には感謝してるけどさ」
**クリス**は首を横に振った。まるで自分が犯した罪の大きさを理解していないかのように、表情は穏やかだった。
「長い年月の中で、あいつだけが唯一、突破口を開いた神様だったのは残念だよ。そうでなければ、ボクの力もこんなにゆっくり回復することはないのに」
少し残念そうにため息をついた。
「…」
こいつ、まさか狂人か?
**ハーバート**と**パルガス**は顔を見合わせ、相手が神殺しについて、こんなにもあっけらかんと話すことに驚いた。
そもそも、神々を裁く権限を持つ神王**ゼウス**でさえ、そう簡単に神を滅ぼすことなどしない。神王の力をもってすれば、神殺しの反動を抑えることはできるかもしれないが、神の滅亡は、世界の法則の完全性に影響を及ぼし、法則に嫌われることになれば、恐ろしい結果を招くことになるからだ。
ましてや、普通の神々にとって、神殺しの反動はあまりにも大きい。しかし、**クリス**は神殺しをまるで意に介していない様子だった。この古きタイタン神は、何らかの方法で法則の罰を逃れているようだ。
「そういえば、ボクが喰らったあのちっちゃい神様の記憶によると、お前はかつて、若さを司る三流神だったな。それが今や、生命の神という、生命力と活気に満ちた、何とも魅力的な力を手に入れた主神になったとは!」
**クリス**は、金色の髪に紫色の瞳を持つ女神を見つめ、彼女の中に宿る膨大な生命力を感じ、抑えきれないほどの欲望を瞳に宿した。
欲しい…喰らいたい!
「あなたの神格化も、素晴らしいですね、**ハーバート**様」この神の企みに警戒し、**ハーバート**はとりあえず、穏やかな言葉遣いを貫くしかなかった。「**クリス**殿下、生命の神であるあなたが、なぜこんなにも濃密な死のエネルギーを集めているのですか?」
**ハーバート**は、死の川に突き刺さった金色の杖が、絶え間なく死のエネルギーを吸収しているのを見て、生命の神が一体何のためにこんなにも濃密な死のエネルギーを欲しているのか、理解できなかった。
まさか、冥府の神にでもなろうとしているのか?
「ご興味がおありですか?**ハーバート**様。お教えしましょう。何かを貸してくれればね」**クリス**は、杖の上の神力を撫でながら、死のエネルギーが流れ込むのを見て、満足そうな表情を浮かべた。
「何を?」
「あなたの生命神力だよ」緑色の髪の神は顔を向け、その薄緑色の瞳に貪欲な光を宿し、金色の髪の女神をじっと見つめた。元々持っていた温和で友好的な態度は消え去り、陰鬱で不気味なオーラに変わっていた。
黒と白の影がちらつく霜の神剣が、彼に向かって振り下ろされた。**パルガス**の目は激しい光を宿し、カラスの黄金の翼を羽ばたかせ、**クリス**の傍に素早く現れた。疫病と蒼白なる恐怖がもたらす死の力は、冷酷で圧倒的な破壊力をもって、敵を襲う。
神々の戦いが、今、始まろうとしていた。
「失礼な」
**クリス**の唇に冷たい笑みが浮かび、緑色の神光がちらついた。純粋な生命神力が盾へと変わり、瞬時に彼を包み込んだ。
「カキン!」
「ドーン!」
金属が石にぶつかるような爆音が響き渡り、対立する二つの神力の衝突は衝撃波を生み出し、周囲の土や石を粉々に砕いた。
「シュウウウウ!」
**クリス**の後ろから、数千メートルにわたって無数のエメラルド色の蔓が空に向かって伸び、太陽を遮る植物の波を形成し、渦を巻きながら**パルガス**を攻撃した。
**ハーバート**の手には、美しく作られた翡翠の弓が現れた。女神はすぐに翼を生やし、安全な位置へと移動した。翡翠の弓を三日月型に引き絞り、浄化と凍結の神力が、まるで大潮のように弓に流れ込んだ。翡翠の弓は神々しい光を放ち、その鋭く、揺るぎない勢いは爆発し、銀白色の矢が放たれ、**クリス**の神体へと真っ直ぐに突き進んだ。
主神レベルの神が放つ矢の威力は凄まじく、**クリス**の表情も変わった。
彼は、**パルガス**を追うことを諦めざるを得なかった。エメラルド色の蔓は後退し、彼の前に緑色の壁を形成した。
銀色の矢は蔓でできた壁に命中し、浄化と氷結の神力が爆発した。浄化の力は、内部の神エネルギーを打ち消し、絶対零度は蔓を凍結させ、粉々に砕け散らせた。
しかし、再び緑色の神光が湧き上がり、無数の蔓が新たに芽吹いた。これらの一見脆弱な蔓は、**ハーバート**の矢を防いだ。
「二人もの主神を相手にするのは、さすがに少し厄介だな。目覚めよ、我が子よ!」
**クリス**の威厳に満ちた声が口から発せられ、彼はゆっくりと手に持った黄金の杖を掲げた。六角形の宝石が眩しく輝き、緑色の光の奔流が溢れ出し、彼の前の地面に流れ込む緑色の光の川へと変わった。
それは美しい光景だったが、**ハーバート**にはそれを鑑賞する余裕はなかった。彼女の中に、不吉な予感が込み上げてきた。
地面が揺れ、**スフェトール峡谷**全体が激しく揺れた。
瞬く間に、巨大な手が地面から現れ、次々と別の手が現れた。そして三つ目の手が。千メートル近くもある巨人たちが、それぞれ百の腕を持ち、地面から姿を現した。彼らの巨大な目には、激しい怒りと血への渇望が宿っていた。百の巨大な腕は、空中の**ハーバート**と**パルガス**に向かって伸び、真の旋風を巻き起こした。
「ヘカトンケイルだ!」
**ハーバート**は慌てて翼を羽ばたかせ、ヘカトンケイルの振り回す腕を避けた。驚きはしたものの、油断はしていなかった。
ずっと昔、タイタン神の時代に、神々の母である**ガイア**と**ウラノス**は、五十の頭と百の腕を持つ恐ろしい存在である三体のヘカトンケイルを生み出した。彼らは山を動かし、海を埋め尽くすほどの強大な力を持っていたが、その暴力的な性質と醜い外見から、神として認められることはなく、最終的に**タルタロス**に幽閉された。
これらの巨人は、ヘカトンケイル、つまり「百の腕を持つ怪物」としても知られていた。
神々の母である**ガイア**は**クリス**の母であり、彼女から受け継いだ生命の領域を持つ**クリス**が、このような怪物を作り出すのは当然のことだった。しかし、彼の神力が不足しているためか、彼が作り出したヘカトンケイルは百の腕を持っているものの、伝説の五十の頭は持っていなかった。
ヘカトンケイルの恐怖は、あの百の腕の中に秘められた無数の猛々しい力にあった。彼らが持つ途方もない力は、神体さえも容易に圧倒することができ、一撃で普通の二流神を重傷に負わせることさえあった。
さらに、彼らの皮膚は大地に祝福されており、自然の魔法免疫存在となっていた。五十の頭と合わせれば、彼らは普通の人の五十倍の反応速度で戦場を駆け巡る。
彼らは過去のタイタン戦争にも現れ、その恐るべき破壊力は、タイタン巨人たちでさえ抵抗するのが困難だった。もし彼らの数が極端に少なければ、今、神山の玉座に誰が座っていたことだろうか?
**ハーバート**は、この巨人の体内に**クリス**の血統を感じ取ることができた。しかし、ヘカトンケイルは猛々しい一方で、知性も持ち合わせていた。この巨人は強力でありながら意識を欠いており、まるで操り人形のように行動していた。
**ハーバート**に、閃きが走った。血統秘術!
長年にわたり生命の権能を操ってきた**クリス**は、当然のことながら、生命に関する数多くの秘術を習得していた。彼女は、神殺しを犯したにもかかわらず、彼が法則からの反動を見せていないことに違和感を覚えていた。彼は、自らの血統を通して生み出したヘカトンケイルに呪いを移し、巨人の神聖な魂を犠牲にすることで、反動を回避していたのだ。
知性と力の、何と恐るべき組み合わせ!
**ハーバート**の**クリス**に対する警戒心は、さらに強まった。この時点で、状況は共倒れへとエスカレートしており、彼女に手加減する余地は残されていなかった。
彼女は**パルガス**と視線を交わし、二人の神は一体となり、精神的な繋がりを共有した。
**パルガス**は翼を羽ばたかせ、**破滅の輪**が頭上に浮かんだ。手に持った霜の剣は、紫がかった赤色の炎に包まれ、破壊の天上の炎が激しく燃え盛っていた。
「**パルガス**の光によって、冥府の輝きが、この峡谷を照らせ!」
**パルガス**の言葉と共に、冥府の太陽の紫がかった影が、暗い峡谷に突然現れた。冥府の太陽の光が降り注ぎ、**パルガス**の勢いは高まった。彼はカラスの黄金の翼を激しく羽ばたかせ、まるで暗い金色の流れのように、荒れ狂うヘカトンケイルに向かって突進した。
ヘカトンケイルを**パルガス**に任せ、**ハーバート**は、かすかな笑みを浮かべた男性神に視線を向け、その壮麗な紫色の瞳には、戦意が満ち溢れていた。
彼女の手には、華麗で輝かしい生命の杖が現れた。
「生命の領域!」
金緑色の光子が大潮のように溢れ出し、**スフェトール峡谷**を覆っていた死のオーラは、活気に満ちた生命力で満たされた。植物が土を突き破り、急速に芽を出し、枝を広げ、花を咲かせた。花と緑の草が周囲を飾り、夢のような光景を作り出し、背の高い木々が次々と地面から生え出た。金緑色の光子は、**ハーバート**の周りで妖精のように踊り、彼女の中の神聖な本質は輝きを放ち、彼女の勢いは絶え間なく高まっていた。この領域において、彼女の神力は主神の頂点に近づいていた。
「生命の領域?何と才能に恵まれた子よ」
**クリス**は、この新たに昇格した生命の女神が放つ神聖な領域を感じ、驚きと後悔を感じた。彼女は、彼女の生命の法則に対する理解と、彼女の恐るべき才能に驚嘆したが、このような天才が今日、倒れようとしていることに後悔した。
神力の奔流の下、植物たちは猛烈に成長し始め、生命の力に満ちた巨大な緑色の手へと合体し、杖を持つ**クリス**へと伸びていった。