20. 更新契約
マジで脅しだよ、コレ。
アルデンがやったことって、もしかしたら警察に通報されるかもしれない。葬式から帰ってきて、夕飯前まで、ずっとハナはアルデンの言葉のことばっかり考えてたんだ。
彼女の心の中の葛藤はもう明らか。アルデンの行動って、脅迫とか、嫌がらせとか、何にでも当てはまりそうじゃん。
でも、ハナには証拠がないんだよね。全部言葉だけだし、アルデンはシラを切れる。特に、目撃者もいないし。それに、警察がハナの味方をしてくれる保証もないし。
ハリソン家を知らない人なんていないでしょ? 結局、刑務所に入ることになるのはアルデンじゃなくて、ハナの方かもしれない。
ハナはもう八方塞がりだった。
スマホの画面見たら、夜の7時。ハナはベッドからノソノソ出てきた。ダルそうに、食堂に向かう。部屋でゴロゴロして、お腹がグーグー鳴るの、無視しちゃおうかなって気分だったんだよね。
今日はジョンの葬式の日で、ハナの悲しみは、周りの人たちのせいでさらに深まってた。アルデンを良い人だって思ってた自分がマジで嫌になった。あいつは、獲物を締め上げて、じわじわと吸い上げるクモみたいな男なんだよ。
「こんばんは、アルデン様」ハナは反射的に挨拶した。
食堂に入ると、アルデンがもうそこにいたからビックリ。アルデンのさっぱりした顔を見ても、ハナの決意は揺るがなかった。
っていうか、余計にムカついたし。
ハナは、ステンレス製のフードカバーを横にどけた。食欲なんて完全に失せてたけど、できるだけ早くご飯を済ませようと思った。せめて、アルデンの顔を見なくて済むように。
マジでムカつく!
「怒ってる?」アルデンが突然聞いてきた。
ハナはチラッとアルデンを見て、それから自分の皿に戻った。答える必要ある? 今さら、わかりきってるじゃん。
「好きに怒ればいい」
ハナの反応は、短い溜め息と、軽い吐息だけだった。
アルデンの言葉に、乗せられないようにしなくちゃ。ハナは心の中で繰り返した。あの男は、ハナを苦しめるのを楽しんでるんだから。
ハナには気づいてなかったけど、アルデンはハナをじっと見てたんだよね。アルデンは、葬式みたいな状況が、なぜか嫌いだった。前は、2人の間の静けさ、好きだったんだけど。
でも、この静けさが、ハナが怒ってて、本当に静かにしてるからだって思うと、アルデンは落ち着かなかった。
「もっと賢く考えた方がいい。俺と一緒にいれば、お前にとってメリットがあるんだ」アルデンは言った。
ハナは返事をしなかった。イライラするな、アルデンはムカついた。
「俺の話、聞いてないのか?」彼は尋ねた。
ハナはまた彼を見て、それから一言も言わずに軽く頷いた。
「何か言えよ!」
ハナはスプーンを置いた。「はい」
「あのさ、お前の家族に、もうちょっかい出されたくないんだ。一緒に住んでれば、少なくとも、あいつらに近づけなくなる。セキュリティが、フランチェスカとかアスペンとか、この敷地に入れないようにするから」
「借金を全部返したら、この場所から遠く離れられる」
「サマーヒルを出たら、何するんだ?」
「働くよ」
アルデンは、まずいこと言ったって思った。ハナは、いつも文句言ってたり、生活に困ってたりするような、ワガママな女じゃない。ハナが、いつも家族を支えるために一生懸命働いてたことも知ってたし。
もちろん、ハナにとって、サマーヒルを出るのは、そんなに難しいことじゃない。今、ハナは、自分の未来をアルデンに奪われてるように感じてる。
「ごめん」アルデンは静かに言った。
ハナは食べ物をすくおうとした手を止めて、信じられないって顔でアルデンを見た。ハナがアルデンに謝罪を聞いたのは初めてで、すごく変な感じだった。
「謝ったんだ」
「はい、アルデン様」
「本当に家を売りたいなら、勝手にしろ。俺は止めない」
「ありがとうございます、アルデン様」
また、空気がシーンと静かになった。アルデンはすごく落ち着かなくて、ハナがあんなに冷静な理由が分からなかった。昨日、ハナはすごく弱ってて、自分の命を終わらせたいような感じだったのに。
でも、今は? 全然違う人みたいだ。
ハナが絶望してる時、アルデンの心には、彼女を守ってあげたいっていう気持ちがあった。アルデンは、一人ぼっちになるのがどんな気持ちか知ってるから辛かったんだ。でも、今のハナみたいに冷たいと、アルデンは不安になる。
「いつ家が売れるのか、俺には分からない、ハナ。保証できない」アルデンは小さく咳払いした。「でも、売れるまで、ここにいてくれないか」
ハナは頷いた。「はい、アルデン様」
「取り決めを変える、ハナ。結婚して1年間は、家が売れるかどうかに関わらず、一緒にいることにした」
今度はハナはアルデンをまっすぐ見て、目をそらさなかった。「どうして?」彼女は尋ねた。
「だって、最初から、お前にTexcoの右腕になってもらいたかったんだ。でも、お前は、サマーヒルから遠くに行こうとしてるかもしれないだろ。借金を返したら、俺が引き止める意味って何?ってなるだろ」
ハナは軽く頷いただけだった。
「だから、この1年間は、Texcoを任せたい。お前の代わりになるやつを探すよ」アルデンは続けた。
「アルデンの奴隷にってこと?」
「俺の右腕だ」
もちろん、アルデンは、ハナみたいな奴隷をもう一人作るわけにはいかない。他の女が借金まみれになって、助けを求めてこない限りは。少なくとも1年間は、ハナに右腕でいてくれって頼むだけなら、問題ない。
それに、アルデンがハナとの間に子供が欲しいと思うはずがないし。
なぜか、サラって名前が、ハナの頭にポンって浮かんだ。アルデンにとって忘れられないのは、サラって名前の女だけみたいだった。きっといつか、アルデンはサラと結婚したいって思うだろうな。
「来週から、会社のことをまた考えよう。お前の喪が明けてからな。ミスター・ガルフマンとも話した。Texcoの俺の右腕として、お前を紹介するよ」アルデンは説明した。
なぜか、ハナはまだ準備ができてないって感じた。人々のちょっとした嘲笑が、彼女の自信を瞬時に打ち砕くんだ。会社が、アルデンがハナと共同で所有しているって発表したら、諸刃の剣になる。
ハナが自分の役割を果たせなかったら、大変なことになるかもしれない。Texcoが標的になるし、時間をかけてTexcoを築いてきたアルデンが、そのツケを払うことになる。
「本当にいいんですか、アルデン様?」ハナは用心深く尋ねた。
「そろそろ、会社は俺のもので、お前が俺の右腕だってことを、みんなに知ってもらう時かもしれない。ミスター・ガルフマンと一緒に」
「これが裏目に出て、会社に問題が起きないといいんですが」ハナは突然口出しした。
「問題? なんでそう思うんだ?」
「いえ、アルデン様。何でもありません」
「俺が車椅子で、会社の価値が、俺の状態のせいで下がるかもしれないってことか? そういう意味だろ?」