3. 政略結婚
ハンナの目は見開かれた。ハリソン家の家に足を踏み入れたとき。
家っていうか、マジで豪邸。
マキシム・ハリソンの会社が倒産したっていうのに、その豪華さはまだ残ってて、すごい。
ガレージに何台か高級車が停まってるだけで、質素に暮らせば一生安泰じゃん、みたいな。
ハンナはタクシーから降りて、テラスに向かった。
心臓はバクバクだけど、進まなきゃ。
約束通り、ハンナは来たんだ。
もちろん、ジョンさんの治療費をハリソン家が助けてくれたのは、感謝しかない。
マキシムとアルデン・ハリソンの前にひざまずくことになったとしても、ハンナはやった。
ハンナは丁寧に彫刻された木のドアに飾られた植物模様を見て、インターホンを押した。
マジ、クラシック。
ドアが開いて、エドワードが細い笑顔で立っていた。「ハンナさん、どうぞ」って感じ。
ハンナは気まずそうにうなずいて、中に入った。
「こちらへどうぞ」
ハンナは、壁に絵が飾られた広い廊下を歩いた。家全体がアースカラーで、クリーム色を基調に茶色がアクセントになってる。
天井は高くて、クリスタルのシャンデリアがキラキラしてた。
いくつか部屋の前を通り過ぎて、エドワードが2つのガラスのドアを開けた。家の裏側につながってる。
そこには、気持ちよさそうな裏テラスが広がってた。レンガ色のクッションが乗ったテラスチェアが右側に並んでる。
ハンギングプランツと花で飾られてて、静かな裏庭が見える。
噴水もある。
パティオの左側には、屋外ダイニングテーブルがあった。
ハンナは車椅子に座って、ラップトップの画面を見ている男性に気づいた。
「ヤングマスター・アルデン? ハンナさんがいらっしゃいました」ってエドワードが丁寧な口調で言った。
その茶髪の男性は、肩にかかるくらいの髪で、冷たい視線をハンナに向けた。
ハンナは、ちょっとだらしない感じのアルデンを見て、同情せずにはいられなかった。
ヒゲも剃ってないし、目の下にはクマがある。
でも、それでもアルデンはめちゃくちゃイケメンだった。
ハンナは、自分からアルデンに近づいて、手を差し出した。「ハンナ・シアーズです、アルデンさん」って、緊張してちょっと大げさな口調になっちゃった。
でも、アルデンの反応は冷たい視線だけで、顎で向かいの椅子を指した。「座れ」って命令口調。
ハンナは手を引っ込めて、唇を噛んだ。
こんなの、初めてアルデンに会ったときのイメージと違う。
ハンナはエドワードに助けを求めるように見た。
「私はこれで」ってエドワードは遠慮した。
えー!行かないで!ハンナは心の中で叫んだ。
「聞こえてないのか?」アルデンが突然言った。
「え?」
「座れって言ったんだ」
ハンナは目を見開いた。
心の中で悪態をついた。
アルデン・ハリソンの態度の悪さに呆れたんだ。
そう、ハンナはあのビリオネアの息子は性格悪いっていう噂は聞いてたけど、初対面の人にこんなにキツい態度とるなんて、想像もしてなかった。
ハンナは慎重にアルデンの向かいに座った。テーブルに隠れてるから、よく見えない。
数分間、沈黙が続いた。噴水の水の音だけが聞こえる。
「俺と結婚したいって、なんでそう思うんだ?」アルデンが沈黙を破った。
ハンナは、ラップトップに視線を向けたままのアルデンを見つめた。
「俺と結婚する価値があると思うのか?」彼は淡々と続けた。
「私、は…」ハンナは言葉に詰まった。
この結婚を望んだのは、ハリソン家の方でしょ?
マキシムとジョンの過去からの友情が原因?
それとも、ただお金のため?
急に、ハンナはめまいを感じた。
アルデンはちらっとハンナを見た。「答えられないのか?」
「そんなこと、どういう質問?」
今度は、ハンナとアルデンの目が合った。
アルデンの視線は怒りと憎しみで満ちてたけど、その濃い茶色の目には、ある種の美しさがあった。
何がアルデンの目に、そんな痛みを与えてるんだろう?
アルデンの唇には皮肉な笑みが浮かび、彼はため息をついた。「で、何ができるんだ?」
「結婚を申し込んだのは、あなたのパパでしょ?」
「ジョン・シアーズの娘の一人と結婚するメリットなんてない。
お前が何ができるっていうんだ?
」アルデンは頬に手を当てた。「俺の家族は、お前の経済的な負担に対処しなきゃいけないのに」
ハンナの顔は真っ赤になった。
感情的になって、椅子の肘掛けを強く握りしめてた。
目の前のこの無礼な男を平手打ちしたくなった。
でも、ハンナは気づいたんだ。
目の前の男が、ジョンの命を救った人だってことに。
好き嫌い関係なく、すべての侮辱を受け入れなきゃいけないのかもしれない、もしかしたら軽蔑さえも。
プライドなんて、役に立たないなら意味がない。
アルデンの言葉は正論で、ハンナは苦い薬を飲み込まなければならなかった。
「じゃあ、どうしたら、アルデンさんのご親切に報いることができますか?」ハンナは震える声で尋ねた。
アルデンはハンナを見てニヤリとした。「教えてくれよ、考えてやるから」
「私と結婚する?」
「俺のスケープゴートになるのか?お前の将来の旦那はアスペンを選んだんだろ?
前に聞いたよな?」アルデンは乾いた笑い声を上げた。「マジか、こんなことになるとは思わなかったよ」
「妹のこと、愛してるの?」
アルデンは軽く首を振った。「ああ、勘違いするなよ。俺は、パパとジョンの間のその結婚には、全く興味ないんだ」
「じゃあ、結婚するの?」
「お前の将来の旦那はアスペンを選んだんだ。もう話しただろ?」
ハンナの頭の中では、自分がアルデンと結婚する価値があるのかどうかがこだましてた。
自分の顔や容姿はそんなにダメで、ジェフリーは彼女を避けるのか?
アルデンの言葉は、ハンナの悲しみをさらに深くした。
「で?私はあなたの娼婦になるってこと?」
アルデンは、ハンナの質問にまばたきした。
「お前より可愛い娼婦はたくさんいる。
お前がベッドで上手いのかどうかも知らないしな」彼は落ち着いて答えた。
ハンナは一瞬黙って、そんなに無礼な男と関わって、もうエネルギーが残ってないように感じた。
「私が全部払います、アルデンさん。
たとえ一生あなたに仕えることになっても、他に何も持っていないんです。
私の命を差し出したら、あなたは受け入れてくれますか?」ハンナは諦めたように言った。
アルデンはハンナをじっと見て、すぐに答えなかった。
まるで、クリーム色のシャツとコートを着たハンナの体を脱がせようとしているかのようだった。
突然、アルデンはラップトップの画面を閉じた。
「家に帰れ、ハンナ」アルデンは少し冷淡に命じた。
「でも、その…」
アルデンはハンナの言葉を遮った。「家に帰って、パパに会え。
パパが起きたら、それを待て」
ハンナは困惑して、どうしたらいいのかわからなかった。
すぐにアルデンの前にひざまずくべき?
「パパに明日、パパが起きたらすぐに俺と結婚すると言ってくれ。そして、パパの祝福を求めろ」アルデンは続けた。
ハンナは信じられないって顔でアルデンを見つめた。「明日?」