6. テクスコ社へ
ハンナはベッドの端に座って、ドアをじっと見つめてた。もう朝なのに、全然寝れなかったんだよね。これからどうすればいいのか、マジでわかんない。
とりあえず、部屋を出て、何事もなかったように振る舞うってのもあり。
それか、部屋にずっといて、エドワードとか他の使用人が来るのを待つっていうのもアリ。
最後に、アルデンの屋敷をこっそり抜け出すって選択肢もあったり。
ハンナが色々考えてたら、部屋のドアが開いた。
視線をドアの方に向けると、そこに立ってたのは車椅子のアルデン。めっちゃびっくりした。
冷たい視線がハンナを貫いてきて、完全に威圧されて、ハンナはすぐに頭を下げた。
車椅子の音が近づいてくるのが、耳にめっちゃ怖かった。
「もう8時過ぎだぞ。なんでダイニングにいないんだ?」アルデンは淡々と言った。
「お腹すいてないんです」ハンナは答えた。
車椅子がハンナの目の前で止まり、膝がほとんどくっつきそう。
アルデンはためらうことなくハンナの顎に手をかけた。少しだけ強めに、顔を上げさせた。
「腹が減ってようが減ってなかろうが、ダイニングには時間通りに来い」アルデンは冷たく言った。
ハンナは緊張してゴクリと唾を飲み込んだ。「ごめんなさい」
アルデンの目が少し細まり、それから指がハンナの左目の下を触った。「この引っ掻き傷はなんだ?」
「わかんない。覚えてない」
アルデンは一瞬、昨夜のことを思い出した。でも、ドアに飲み物の瓶を投げつけたのは覚えてたんだよね。ハンナがガラスで怪我をしたんじゃないかって、ちょっと心配になったみたい。
アルデンの手が自分の膝の上に戻った。「朝食の後で、使用人に傷の手当をさせよう」
ハンナは弱々しく頷いた。「ありがとうございます」
アルデンは車椅子を回して部屋を出て行った。ハンナも後に続いた。
ハンナの気持ちはもうぐちゃぐちゃ。アルデンが自分で部屋に来るなんて思ってなかったし。
アルデンの態度はまだちょっとキツいけど。
少なくとも、ハンナを侮辱したり、昨夜の怒りをぶつけたりはしなかった。
ハンナはアルデンに謝罪してほしいとは思ってなかったから、その方がいい。
ケンカするよりはね。
二人はダイニングに入り、ほとんど会話なしで朝食を食べた。っていうか、マジで一言も話さなかった。
人形みたいに、話しかけられるだけでもマシだったりする。
ハンナの存在は、まるでダイニングテーブルの真ん中に置かれた絵画か花瓶みたい。
ただの飾りとしてそこにいた。
アルデンは、何の遠慮もなくプレートに叩きつけたナプキンで口を拭いた。それから一言も言わずにダイニングを出て行った。ハンナを混乱させたまま。
「これからどうすればいいんだろ?」ハンナは静かに呟いた。
部屋に戻ろうと椅子を後ろに下げた時、エドワードがダイニングに入ってきた。ハンナに丁寧にお辞儀をした。
「おはようございます、ハンナ様。朝食はいかがでしたか?」エドワードが挨拶した。
「美味しかったです、ありがとうございます」
「アルデン様が、ハンナ様にテスコ社に行ってほしいとおっしゃっています。準備できますか?9時に出発です」
ハンナはマジでビックリした。テスコって、ジェフリーが働いてる会社じゃん。
2年くらい前にサマーヒルで始まった会社。
なんでハンナが行かなきゃいけないの?アルデンの真意は?ハンナは不安になった。
「何のために行くんですか?なんでアルデン様が自分で行かないんですか?」ハンナは尋ねた。
「オーナーのバーナード・ガルフマン氏に会うためです」
ハンナは咳払いをした。「えっと、私が行く目的は何ですか?なんでアルデン様が自分で行かないんですか?」
エドワードは数秒間考えてから、簡潔に言った。「あなたは奥様だからです」
奥様。
その言葉にハンナは動きを止め、アルデンの命令に従うために渋々頷いた。
ハンナは、テスコビルの大きくてモダンなロビーに入って、ため息をついた。
5階建てのビルは天井が高くて、7階か8階建てのために設計されたのかもしれない。
ロビーは広々としてて、清潔な白いペンキと未来的なミニマリストの家具が目立ってた。
気まずそうに、ハンナはレセプションデスクに近づいた。
体が震えてたけど、エアコンのせいじゃなくて、何をしに行けばいいのかもわからずに会社に来たから。
エドワードからはファイルを渡されて、あとはアルデン・ハリソンの妻だって自己紹介すればいいだけだって。
マジで変。
「こんにちは、おはようございます。テスコへようこそ。何かお手伝いできることはございますか?」レセプショニストが挨拶した。
「バーナード・ガルフマン氏に会いに来ました」ハンナは答えた。
「アポイントメントはありますか?」
「えっと…ハンナ・シアーズです。アルデン・ハリソン氏から会うように言われました。予約とか、ありますか?」
レセプショニストは頷き、それから画面を見てマウスをクリックした。
「はい、10時です。10分後にガルフマン氏とお会いできます」レセプショニストは言った。それから、ハンナに「ビジター」のバッジを渡した。「ビジターズルームでお待ちください。ここから右に曲がって、角にあります」
「あ、はい」ハンナは頷いた。
「10時にガルフマン氏に会うために迎えに行きます」
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
ハンナはビジターズルームへ急いで歩いた。
そこへ続く廊下は人っ子一人いないみたいで、ハンナのヒールの音が響いてた。
ハンナはガラスのドアを押して入った。
ビジターズルームはかなり印象的で、ソファー、ブース、軽食や飲み物のテーブルがあって、まるで仕事場みたいだった。
でも、ハンナがそこで会うとは思ってもいなかった人がいた。
アスペン。
ハンナの義理の妹が、カジュアルに紅茶をカップに注ぎ、すぐにドアの方を見ていた。
ハンナにはもう戻る道はなかったから、目が合っちゃったし、ロビーで待つのはやめた。
アスペンはニヤリと笑いながら、カップを上げただけだった。
ハンナは入って、ソファーに座り、バッグから携帯電話を取り出した。
ハンナはできるだけアスペンを無視しようとした。
アスペンの足音が近づいてきて、それからハンナの向かいに座った。
「あら、びっくり」アスペンは紅茶を一口飲みながら言った。
「そうね、まさかあなたに会うとは思わなかったわ」
「てか、ハネムーン中だと思ってた。昨日結婚したばっかりでしょ?」アスペンは小さく笑った。「インターネットのニュースで見たわよ。主要な見出しの下に埋もれてたけど」
「実は、結婚式は公開するつもりじゃなかったの」ハンナは静かに答えた。「招待状は家族だけだったのよ」
「まあ…私たちはパパの世話で忙しかったから、行けなかったんだよね」
「それは全然大丈夫よ、実際。あなたとママがパパの世話をしてる方がいいわ」ハンナの視線はアスペンに移った。「だって、私がパパの治療費を払ってるんだから。それがフェアだと思うんだけど、どう思う?」ハンナは続けた。