第66章:彼は彼女が寝たふりをしていたことを最初から知っていた
「え、まだお腹すいてる?なんか食べる?」
「うそ!?」ってマルティナはビックリして返事しない。
マジかよ、最初から寝たフリだってバレてたってこと?
あたし、ただのオモチャみたいじゃん、目の前の男に弄ばれてるだけ。
絶対、敵わない。
マルティナは、本当はそのまま寝たフリ続けようと思ってたんだけど、ベンジャミンはずっとあたしのこと見てて、全然離れる気配ないんだもん。
あんなに熱い視線向けられたら、もう無理。
観念してマルティナは、バッと目を開けて、超至近距離のベンジャミンを見た。
そして、ちょっと気まずそうに抱擁から抜け出した。
マジで気まずくて、マルティナの顔、引きつってる。
「寝たフリって知ってたんなら、なんでもっと早く言ってくれなかったの?」
ベンジャミンは黙ってるけど、色々考えてるんだよ。
マルティナともっと仲良くなりたいのに、起きてたら無理じゃん?
今、マルティナはベンジャミンのこと嫌がってるけど、それがなくなれば、少しは近づけるチャンスあるだろ?
だからベンジャミンは、マルティナが寝たフリしてるって気づかないフリしてたんだ。
マルティナのためだけに、そこまでしたって言っても過言じゃない。
マルティナも、本当はわかってたんだよね。
ベンジャミンのこと考えたら、あたしが寝たフリしてるかどうかなんて、すぐに見破れるはずじゃん。
でも、マルティナの頭の良さが裏目に出た。
そこだけ、完全に忘れちゃってたんだよね。
いや、もしかしたら、ベンジャミンがあんなに余裕な態度とってくるとは思ってなかったから、不意をつかれたのかも。
「お腹すいてる?昨日の夜、あんなに長い時間運転したんだから、絶対お腹すいてるでしょ。下に降りてご飯食べよう。疲れてたら、食べ終わったら寝ていいよ」ベンジャミンの言葉、命令口調。
話したくなくて、マルティナはただ黙って出ていった。顔も見たくないし。
ベンジャミンは全然怒ってない。むしろマルティナの後ろ姿をずーっと見てて、最後にちょっと笑った。
これでいいんだ。マルティナが満足すれば、またあたしのこと深く愛してくれるようになる。
よかった、ベンジャミンの頭の中、誰も知らないで。
だって、作戦立てて全部うまくいってるベンジャミンに、困ることなんてないんだから!
でも、そんな人でも、こんなこと思ったりするんだ。
自分の行動を目撃されなかったら、誰も信じないだろうな。
マルティナは下に降りて、すぐにきちんと着飾ったエリザベスを見た。
まるで示し合わせたように、エリザベスもマルティナの方を見てる。
前と全然変わんない、エリザベスの目には、まだちょっと見下した感じと、小馬鹿にした感じが残ってる。
でも、前と違うのは、エリザベスにもなんか企みがあるってこと。
エリザベス、自分の感情を隠そうとしてるけど、マルティナには全部お見通し。
別にマルティナは気にしない。
人の気持ちなんて、意外と簡単にわかっちゃうもんだし、ごまかそうとしても無駄なんだよね。
でも、マルティナは聞こえないフリした。
自分が嫌な気持ちになるんじゃなくて、相手に嫌な気持ちになってもらおうって決めたんだ。
前はわかんなかったけど、今はハッキリわかってる。
そう思ったら、マルティナはエリザベスの前で、わざとらしくドスンと座って、完全に無視。
もし、マルティナとエリザベスが二人きりだったら、エリザベスは絶対にキレて、嫌がらせしてただろうけど、今はできない。
だって、ベンジャミンがいるんだから、そんなことしたら、今まで隠してたこと全部バレちゃうじゃん?
それはエリザベスが見たくないこと。
エリザベスは、どんなにムカついても、我慢するしかないんだよ。
「マルティナ、やっと帰ってきたのね」って、優しい口調で、完全に演技。「今回はもう出て行っちゃうのかと思ったわ。そうすれば、うちの息子も毎日探しに行く手間が省けるから、それでいいんだけどね」
マルティナも、その言葉の裏の意味、わかってる。
ベンジャミンの大切な時間を無駄にしたってことだよね、お金を稼ぐ邪魔をしたってことだよね。
まるで、あたしが邪魔だって言ってるようなもんだ。
マルティナは、もう早く出て行きたいけど、そんなことエリザベスに言われる筋合いはない。
マルティナは、もうすぐ出て行く予定だから、前みたいに躊躇するんじゃなくて、平然とした態度で言った。「ウォーカー夫人、冗談はやめてくださいよ。仕方ないじゃないですか。あたしを探すようにしたのは、あなたのご子息でしょ?」
そう言いながら、マルティナは髪を触った。長い髪が邪魔になったからかな?エリザベスをチラッと見て、軽く挑発するような口調。
「あたしの連絡先全部ブロックして、姿を消したかったんだけど、それでもあたしの前に現れて、自分で迎えに来るんだから、どうしようもないじゃないですか」マルティナの言葉には、ちょっとした優越感がある。
でも、よく聞くと、別の意味も隠されてるんだけど。
とにかく、エリザベスにとって、これは絶対に許せない状況。
ベンジャミンは、エリザベスにとって一番大切で、一番愛しい息子なんだから。
そんな息子のこと、そんな風に言われたら?
まさか、自分の息子が、女に頭を下げて、そんな風に接してるってこと?ありえない。
エリザベスは拳を強く握りしめて、今にも爆発しそう。
でも、ベンジャミンがテーブルに着いちゃったから、エリザベスは、内心めちゃくちゃムカつきながらも、感情を隠し続けるしかないんだよね。
執事も、エリザベスがもう我慢の限界だってこと、よくわかってる。
もし、マルティナがこんな態度を続けたら、エリザベスは次の瞬間にも爆発するかもしれない。
ベンジャミンがいるから、エリザベスは無理やり笑顔を作って言った。「マルティナ、あなたをそんなに大切に思ってるみたいね。これから、あんまり問題を起こさないでちょうだい」