第115章
いきなり、ベンチが何か重みでギシッてなって、マジでビビった。横の靴にチラッと視線をやったら、コールの靴が何かちゃんと見てなかったことに、まじで自己嫌悪。横の靴はサッカーシューズだったんだけど、コールのだかどうだか、全然わかんない。
なんか、マジでアホみたいって思って。顔見たらマズイかなって思って、顔は伏せたまま、やばいから逃げようとしてたら、隣の男が話しかけてきたんだよね。「子供って、育つの早いもんだね」って。低いバリトンボイスが、余計に緊張を誘う。コールが最後に話した時の声が、頭の中でフラッシュバックしてきた。
ただ、コクンって頷くのが精一杯で、声も出ない。気まずい沈黙の中、こっそり逃げようとしてたんだけど、だんだん焦ってきちゃって、もう無理!ってなって、立ち上がった。怪しまれないように、ゆっくりと。振り向いて歩き出したんだけど、風がまた吹いてきて、フードが頭から吹っ飛んじゃった。
さすがに、振り向いてコールに茶色の髪を見られるほどバカじゃない。そのまま何事もなかったように歩き続けたけど、またフードを引っ張って頭を隠した。
心臓がドキドキして、普通に歩いてるフリしたけど、本当は頭が欲しい奴から逃げるために急いでるんだよね。コールが、あの3人の子供達が遊んでるのに夢中で、あたしの茶色の髪に気づいてないといいんだけど。
っていうか、仮に髪見られても、後ろ姿だし、そんなに問題ないはず。まさかあたしの後ろ姿まで覚えてないだろうし、まじで心配することないんだよね。
そう思ってても、全然心臓のドキドキは止まらない。マジで、ギリギリだったよ。でも、コールに助けを求めてた3人の子供達のこと、あの海で溺れてる時のライフジャケットみたいにコールにしがみついてたの思い出すと、なんか重い気持ちになっちゃうんだよね。もう、あの3人をこれ以上傷つけたくない。
コールとどうやって戦えばいいんだろう?彼の顔を見ると、一番下の男の子の手が、つるみたいに彼の頭に巻き付いてたことしか思い出せない。どうやって、彼と戦えばいいんだろう?彼の腕の中で、女の子が言ったことに対して、優しく微笑んでたことしか思い出せない。どうやって、彼の世界を握ってる男の子を傷つけることができんだろう?
でも、その同じ男が、あたしが試合に出続けないと、家族を殺すって脅してきた。同じ男が、あたしの愛する人の安全を人質にしてきた。でも、子供を傷つけるのは、あたしが直接手を下さなくても、やりたくないんだよね。
その時、カリとピオの顔が頭に浮かんだ。彼らの笑顔が、一瞬、頭の中をよぎって、消えなかった。その考えを振り払った。
あたしは何をしてるんだ?って思った。カリとピオを危険な目に遭わせるわけにはいかない。彼らは何も関係ないのに、巻き込まれてるんだから。傷つけさせたくない。子供を傷つけるのは嫌だけど、あの3人は直接危険に晒されてるわけじゃないけど、カリとピオはそうなんだから。冷たい言い方かもしれないけど、あたしには優先順位があって、カリとピオは一番上なんだ。
これはあたしの戦いで、あたしが始めたことだから、彼らを傷つけさせたくない。もし何かあったら、自分を許せなくなる。ジェリーやプレストン、アダム、あたしのアダムに顔向けできなくなる。子供達の頭に傷がついたら、アダムとのチャンスは全部消えちゃうんだ。
遊び場から数歩歩いたところで、子供の声が聞こえた。「ねー、お姉さん!何か落としたよ!」足が止まって、嫌々ながら振り返った。頭は下げたままだったから、怪しまれなかったみたい。だって、その男の子、あたしの腰くらいしかないんだもん。
あたしは笑顔で、その子から小さな財布を受け取った。座った時にポケットから落ちたんだろうね。マジでついてないことに、コールの手を握ってた男の子だった。あたしは、ありがとうって言って、お辞儀とかされるとは思ってなかった。
「財布を落としたのに気づいたのは、兄貴なんです。それで、届けに来いって言われて。さっきお姉さんの隣に座ってた人だよ。」って、その男の子がニッコニコで言ってきて、あたしは動揺を隠して、小さく笑った。
早くあの「兄貴」に正体がバレる前に、逃げなきゃって思った。
男の子にもう一度笑顔を見せて、兄貴によろしくって伝えて、歩き出した。
財布の中身を確認したら、幸い、全部入ってた。あたしの写真とかも入ってなかったから、開けられてても、そこまでパニックにならなかった。
ブライアントとあたしが8歳の時の写真が一枚だけ入ってた。ブライアントが、あたしをおんぶさせようとして、腕を前に回してて、重くて倒れそうになってたんだよね。
子供が言ってたことを考えてみた。コールは、その子の兄貴なんだ。ってことは、あたしが怪我させた人も兄貴なんだよね。全員養子なのかな?でも、コールが養子を取るってことはありえないでしょ。だって、あいつらはコールのこと、本名で呼んでるし、兄貴って呼んでるんだから。
もしかして、子供達のためにコールとその兄貴が、兄貴の足が悪いのに、トーナメントに参加する理由なのかな?お金のため?そう考えると、胸が痛くなってきた。コールが、兄弟に対する復讐心に燃えるコールに変わってしまったかもしれないと思うと、ぞっとする。
涙が溢れてきて、あたしは歩き続けた。家族があんなことにならなきゃいけないなんて、おかしいよ。
もしトーナメントでコールに勝ったら、あたしの愛する人を、傷つけようとしてるサイコパスから救えるけど、兄の怪我を無駄にすることになる。コールに勝ったら、あの家族の希望を打ち砕くことになる。賞金も手に入らないだろう。でも、コールに勝てなかったら、愛する人達が殺されるかもしれない。
コールがあたしの愛する人を傷つけることについて、考え始めた。3人の子供達に優しくしてるのを見てると、疑いの気持ちが芽生えてきた。でも、カーラの葬式の時のこと、家族を傷つけるって脅されたり、プレストンを殴られたことを思い出すと、疑いは消え去った。あいつは、人を傷つけることにも平気だろうし、家族を守るためには、彼の冷たい心を見くびっちゃいけない。
あたしは、コールに同情する気持ちに負けないように、色んなことを考えながら歩いてたけど、心の奥底では、これはおかしいって声が聞こえてる。こんなに冷酷で、コールに少しも情けをかけないのは、間違ってるって。