第29章
周りを見渡して、人混みの中からレヴィを探した。背が高くてガタイのいいやつばっかりで大変だったけど、あんなバカ友達を見つけ出すって決めてたから、皆をかき分けて進んだ。邪魔だって顔で睨まれたり、ナイフみたいに鋭い視線を向けられたり、突き飛ばされたりもしたけどさ。
やっと、あいつを見つけるのにクソみたいに時間がかかった後、壁にもたれかかって、赤毛の女とイチャイチャしてるのを見つけた。あたしの顔は、もうあの子の髪の色くらい赤くなってると思う。
クソビッチ。あたしを探させるだけ探させて、何がしたいんだよ、あのクズは。娼婦とかなんとかしてる場合じゃないだろ。踏み込んで行って、レヴィの耳を掴んだ。
あたしの顔を見た女は、殺気がすごいと思ったのか、さっさと逃げ出した。
怖いんだろ、ビッチ、すっごく怖いんだろ。あたしはそう心の中で思った後、レヴィの方に視線を戻した。あいつはもう、おしっこちびりそうだった。
「何処行ってたんだよ、クソッタレ!」あたしが怒鳴ると、レヴィはビクッとして、あたしの耳を掴んだことを思い出したのか、顔をしかめた。
「えーっと…やあ?」
それが余計にムカついた。「ああ、このクソガキが…」あたしはブツブツ言いながら、あいつをどう殺そうか完璧に計画し始めた。シャーロックだって自殺だと思うくらい、完璧に計画してやるんだ。
あたしの思考は、耳鳴りを起こすような大きなベルの音で中断された。レヴィの耳を掴む力も弱まり、手はだらんと下がった。耳鳴りのせいで聞こえないから、レヴィの耳元で叫ばなきゃならない。
「何が起きてるんだよ!」あたしが叫ぶと、レヴィは頭を振って、静かに見てろってジェスチャーをした。
あたしはイライラしてため息をついたけど、従った。
二人が違う方向からリングに入ってきて、あたしは自分がなんでこんなとこに来たのか、少し疑問に思った。
実際に戦う前に、どんなことになるのか、ある程度心の準備をしたかったんだ。レヴィは危ないって言ってたけど、どれくらい危険なのか、自分の目で確かめたかった。
答えが見えてきそうだな。
二人は定位置につき、スピーカーが二人のファイターを紹介し始めた。
どうでもいいことだ。スピーカーが止んだら、どっちかが死ぬかもしれないんだから。誰でも関係ない。大事なのは、どっちかが酷い目に遭って一日が終わるってこと。
あたしは、二人が真ん中に集まって、お互いをボコボコにする準備をしているのを見た。
一人はブルネットで、もう一人は金髪だった。他のストリートファイトの連中と同じように、膝上数センチの短パンを履いて、上半身は裸だった。
レヴィの視線も、その二人に釘付けになってる。スピーカーが鳴って、試合開始の合図がした。あたしは二人の動きに目を凝らして、二人がめちゃくちゃ強いって認めざるを得なかった。
『当たり前だろ、バカ。何期待してたんだよ?死ぬかもしれない勝負で、新人が命投げ出すとでも?』あたしの潜在意識が、正論を突きつけてきた。
残酷な戦いぶりに、あたしは目を見開いた。ブルネットはもう地面に倒れて、相手のパンチから顔を守ろうと必死だったけど、無駄だった。
アンダーグラウンド・プレイスよりも血生臭い。少なくともそこには、いくつかのルールがあって、ほとんど守られてないけど、それを知ってる人は守ってる。ルールを。
あたしは、あいつが本当にボコボコにされるのを見てて、心臓がどんどん速くなっていった。相手のパンチが当たるたびに血が飛び散って、ブルネットは血を吐き出して咳き込んでた。
あたしの足は、その場から動けなくなってたけど、血みどろの光景から目を逸らそうと頑張った。
「危ないって言ったろ、ピクシー。よく考えろよ、軽はずみな決断すんな」レヴィが、周りの騒音に負けじと大声で言った。
あたしは、もう一度そのことを考えた。こんなことするって決めるのは、無謀なのかな?
カーラがベッドに横たわって、シーツみたいに顔色が悪かった時のことがフラッシュバックして、ピオがカーラから、人の死について教えてもらったって言ってたことを思い出した。
あのガキは賢くて、それは全部、彼を今の彼に育てた女性のお陰なんだ。もし、彼が成功して、若い青年になったら、きっとそうなるだろうけど、それはカーラの成功なんだ。彼を正しく育て、彼を今の彼にしたのは、カーラなんだ。
あたしは、ピオに愛する人を失う痛みなんて味わわせたくない。ブライアントが死んだ時にあたしが感じたことなんて、感じさせたくない。悲しむ理由なんて与えたくない。悲しみに飲み込まれるなんてさせたくないんだ。
あいつが、あの天井の同じ場所に何時間も、毎日毎日、もしもってことを考えながら過ごすのなんて、絶対に嫌だ。
させない。カーラに簡単に逝かせるわけにはいかない。
あたしは戦う。
あたしの視線はまだ乱闘を見ていて、ブルネットが相手をひっくり返して反撃し始めた。あたしの考えてることを表現してるみたいだった。あたしは良心を無視して、反撃した。
クソみたいな恐怖なんて、どうでもいい。あたしは戦うんだ。
「あたしは軽はずみな決断をしてるんじゃない、レヴ。あたしはこれをやるし、自分のためにやるんだ」あの賞を勝ち取って、カーラが立ち直って、子供たちがくだらないことしたら小言を言い続けられるように。
プレストンが女のことについて悪口言ったら、耳を掴んで叱ってあげられるように。
ピオが恋人を見つけて、愛というパズルを解くのを手伝ってあげられるように。
レヴィがあたしの方を見て、不思議そうな顔になるのが見えた。あたしはその視線を無視した。弱みは見せられない。レヴィはピクシーのこと知ってて、ケイシーのことじゃないんだから。
あたし達は、もう1時間くらい居て、殴り合いを見てた。血まみれでボロボロになって、まともな言葉も発せなくなってるやつもいた。
あたしがいつかボコボコにするのは、あいつかもしれないな、ってあたしは思った。
「お前かもな」って、あたしの暗い思考が邪魔してきて、あたしはすぐにその声をシャットアウトした。悲観的な考えなんて、今のあたしの役に立たないんだから。
やっとこの場所を出ることにした時、あたしは石のように冷たい仮面を被っていて、誰もあたしの内側の感情を見ることができなかった。
冷たい空気が肌を刺し、腕の毛が逆立って、あたしは手をジーンズのポケットに突っ込んだ。あたしの決意は固くて、誰もそれを変えることはできない。
「お前、さっき登録したから、スケジュールは全部決まってるよ。火曜日に、試合のスケジュールを連絡してくるってさ」
あと2日後か。あたしはため息をついて、ぎこちなく頷いた。不安で、指の関節を鳴らした。
「お前も戦うの?」あたしが突然聞くと、レヴィはニヤリとした。
「なんでやらないんだ」あたしはそれに少し笑って、首を振った。
「じゃあな、レヴ」あたしは軽く手を振って、もう角の古いオークの木の下に隠してある自分のバイクに向かって歩き出した。
顔にかかった髪の毛を吹き飛ばして、ヘルメットを被った。エンジンをかけるためにキーを差し込もうとして、もう片方の足をバイクに跨ごうとした時だった。
お尻もいい感じに落ち着いたところで、低い声が聞こえた。
そしてそれは、ケイシー宛の声だった。
あたしは声のする方へ頭を向けて、息を呑んだ。言おうとしていた言葉は喉に詰まって、あたしができたのは、昔親友と呼んでいたやつの見慣れた青い瞳を見つめることだけだった。
「ドム」