第55章
夜がどんどん長く感じて、全部すっ飛ばして終わんないかなって思ってた。今日はソニアにバレそうになったり、10分前に両親から電話があって、もうすぐ帰ってくるって言うしで、マジで疲れ果ててたんだよね。別にさ、両親が帰ってくるのは嬉しいよ?一緒に映画見まくったり、寿司食べたり、アイス買ってきてみんなで食べたりできるじゃん。でも、こうやって夜にこっそり抜け出して、このファイトに参加するのは、確実に難しくなるんだよな。それに、このファイトを逃すわけにはいかないし。
一回でも負けたら、終わり。
デカイトーナメントで、別にプライドとか名声のために全部勝ち進むつもりはないけど、カーラの薬代を稼ぐために、ある程度お金を集めなきゃいけないんだ。で、「ある程度」っていうのは、200万円じゃ全然足りないんだよね。200万円じゃ、せいぜい治療を2回受けられるくらい。でも、手術とか、腎臓移植とか、必要な薬とか全部合わせたら、200万円じゃ全然足りない。マジで、この大会で勝つしか、どうしようもないんだよ。だから、そうするしかない。
手術代を貯める余裕なんてないから、この大会で勝つしかないんだ。だって、手術に1000万円必要なんだもん。で、手術を受ける前に、週に2回治療を受けなきゃいけないんだけど、それが1回につき100万円かかるし。
今日の観客、めっちゃ騒がしいし、いつもより多い気がする。レヴィのこと探しながら、落ち着かない。マジで、あいつ、誰かとヤッてて遅刻とかしたら、ぶっ〇すからな。
アダムのこと考えてた時のこと思い出して、頬が熱くなった。顔が赤くなる。
何考えてんだ、私。
あいつにキスしちゃダメだ。好きになっちゃいけない。友達なのに。
「キスしてたじゃん」って、良心が囁くから、さらに顔が熱くなって、2人の唇が重なった時のこととか考えちゃって。まだ唇に残ってるあの感覚が消えないんだよ。無意識に指でそっと触っちゃった。
クソ、アダム、なんでそんなにカッコいいんだよ。
こんなの、自分の気持ちを抑えるの、マジで難しくなるじゃん。あー、もう、ホルモンめ。リード買わなきゃ。
「よっ、ピックス!」
ああ、やっと聞こえた、いつもの挨拶。ホッとした。「何だよ、遅かったじゃん」って言って、あいつの腕掴んで、会場の中に引きずり込んだんだ。「今日はスペシャルな応援がいるんだ」
顔をしかめた。「レヴィ、ビッチは応援にならないよ。っていうか、多分、サイズが全然合ってない服から胸がはみ出てきて、お前のケツ蹴られるだけだろ」って小言を言った。こんな場所にビッチ連れてくるなんて、ありえないでしょ。「ああ、いいじゃん、ピックス、楽しいって」って、僕が男の燃えるようなホルモン目線で見るって信じてるかのように、眉毛をクイってした。それを想像して、心の中でえずいて、あいつの頭を軽く叩いて、重いケツをずるずる引きずりながら、バックドアに向かったんだ。「私は男みたいに戦うし、男みたいに振る舞い、男みたいに話し、男みたいに汚い言葉を使うし、最悪、男みたいに早く風呂に入るけど、この下の部分には、どんなに小さくてもおっぱいもあるし、ヴァギナもあるんだよ。そして、私はマジでストレートなんだから、やめて、ブタ!」って叫んだら、あいつはすぐ黙った。いい子だ。
いつものように、ガードの怖い顔にパスを見せて、ちょっとだけパスを見て、僕らのためにドアを開けてくれた。一瞥もくれずに。あの態度はマジで呆れる。なんであんなパスくれるんだよ。別にマジで偽造できるじゃん。あのデカい男だって気づかないだろうし。中に入ると、ため息をついた。着替え部屋に着くと、すぐに準備を始めた。レヴィは、今日の相手は、前みたいに優しくもバカでもないって忠告してくれた。
あのクソみたいなセクハラ女のこと考えて鼻で笑った。誰でもあいつのコメカミに一発叩き込めば、20秒でKOできるだろ。でも、基本的には、相手を過小評価しちゃいけないんだよ。私だって知ってる。初めてモニクに、別々に練習してた私達を試合させられた時、マジで、何が起きたのか理解する間もなく、背中に倒されて、首を押さえつけられたんだから。あの試合の終わり方は、マジでプライドが傷ついた。
15分も経たないうちに、名前を呼ばれて、髪の毛が尖った男がいる階段まで連れて行かれた。あいつらは、マジで硬直してるから、動いたら手足が落ちるんじゃないかってくらい。でも、ああいうビジネスだから、警戒するのは仕方ないんだよね。
肩を張って、頭を高く上げて階段を上った。威圧感を与えるために。今日からが、マジで危険が始まるんだ。
レヴィにバッグを投げて、ロープをくぐってリングに入り、相手と対峙した。
髪はすでに高いポニーテールに結んであって、体全体が新しい種類の震え、決意で満たされていた。いつもの黒いぴっちりしたシャツと黒い短パン。認めないけど、たくさんの人に見られるっていうのは、ちょっとだけ心細い気持ちになるんだよね。
周りの声援とか応援とかで、マジで燃えてるフリをして、人をボコボコにするのが最高!って言ってるけど、髪が邪魔にならないようにしてると、顔が全部さらけ出されちゃうんだよね。もし、私のもう一つの人生の誰かがここに来たら、間違いなくピクシーだってバレて、からかわれるだろうな。
深呼吸して、落ち着こうと、心を空っぽにして、試合に集中しようとした。勝たなきゃいけない。邪魔は、絶対ダメ。絶対に邪魔しちゃダメなんだ。
前に進んで、手と向かい合い、事前に相手を評価した。目はタイマーに飛んで、まだ止まってる。じっくりと相手の詳細を評価した。鼻が曲がってるけど、格闘家なら誰でも一度や二度は鼻を痛めるから、それは無視。もっとよく見ると、左目は他の目より光沢がある。ちょっと目を細めて、新しい情報を得ようとした。それから視線を下げて、裸の胴体を見て嫌な気持ちになるのを無視して、体の傷跡を観察し続けた。
最後に、長い間観察した結果、注目すべき点が見つかった。立ち方が不安定。足を動かし続けてる、片足に体重をかけようとしてるみたい。無意識にやってるみたいで、自転車に乗ってるみたいだよね。マジでラッキーだって思った。すぐに勝てる。相手の足に簡単にスワイプできるけど、冷酷にはなりたくないんだ。マジで、本当に必要な時以外は、そんなことはしないって誓った。たぶん、膝の皿。前の試合で蹴られたんだと思う。ベルが試合開始を告げ、お互いの周りを回った。相手の目が計算されてるのが見えて、足が早く動いて、自分の弱点を隠そうとしてるのがわかった。私は、相手がこっそりちょっと足を引きずってるのを見て見ぬふりした。でも、足が怪我してるのに、マジでよくやってるなって思った。私が正しかったのは、相手が私の顔の横にジャブを叩き込んできて、不意を突かれてよろけた時だった。
頬を抑えて、しばらく呆然としてたけど、相手が近づいてきたから、反射的に体をそらして、肋骨にキックを食らうのを回避した。
クソ、ケイシー!集中しろ。
深呼吸して、昔の友達の言葉を思い出した。「人生には2つの選択肢しかない。前に進むか、死ぬか。前に進み続けるか、じっと立って砦を築くか」。でも、砦を築いたら、遅かれ早かれ死ぬことになる。それは、死ぬことと同じなんだ。
そう思って、相手を睨みつけて、突進した。相手のコメカミに致命的な一撃を食らわせて、一瞬よろめかせた。体勢を立て直す間を与えずに、肋骨を蹴りつけた。