第97章
ガタン!ってドアが開く音で、ボケッとしてた状態からハッと我に返った。あのバカ2人はまだグーグー寝てるけど、別に文句はない。やること少ない方が、カサンドラ的にはハッピーだし。ハッピーカサンドラなら、ちょっとくらい優しくなれるかも。でも、レヴィの半分酔っ払いの顔見たら、またムカついてきた。あいつの友達がファンさんになんか恨みでもあるんだろうけど、あたしが巻き込まれるって分かった時点で、もう関わるべきじゃなかったんだよ。
ファンさんは、縄で縛られてる2人をちょっと冷めた目で見ながら、コテージの中に入ってきた。手に持ってるのは、フルーツがいっぱい入ったカゴと、あと何か肉っぽいもの。一瞬、レヴィのことなんて忘れちゃって、肉のこと考えたらヨダレが止まらない。なんか食べたいって気持ちが、こんなに強かったなんて、フルーツを見たとき初めて気づいた。
後になって思ったんだけど、ファンさんって、縛られてるバカ2人を見たとき、冷静すぎない?普通なら、自分の家で2人が縛られてたら、ギャーギャー叫ぶもんじゃない?
まあ、プロの格闘家とかなら、違うのかもね。素手でぶった切るとか、そういうことしそうじゃん。ファンさんなら、マジでやりそうだし。ファンさんは食材をキッチンに運んでて、あたしも行きたかったんだけど、この2人を放置するのもなんか不安だったんだよね。ロープ縛る腕には自信あったけどさ。だから、戻ってくるのを待ってた。
ファンさんは、他人にはすごく優しくて、滅多にキレない人なんだ。すっごい我慢強いっていうか。でも、本気でブチギレたら、うちの兄貴が言ってたんだけど、ケルベロスでさえ尻尾を丸めて逃げ出すらしい。ファンさんがこんなとこで暮らしてるのに、そんな日が来るとは思わなかったけど。
キッチンから戻ってきたファンさんの顔は、いつものように何も読み取れなくて、マジでビビった。人の気持ちが読めないのって、嫌なんだよね。子供の頃から、人の顔とか見て、頑張って勉強したんだ。表情から、その人がどんなこと考えてるとか、どんなことしたいのかとか、そういうのを読み取れるように、すごい練習したんだ。
でも、ファンさんはマジで難しい。顔の表情が、殺意むき出しと、めっちゃ冷静の間を行ったり来たりするんだもん。何考えてるのか全然分かんないけど、過去の経験からすると、あの人、マジでヤバい爆弾なんだよね。
いつ爆発してもおかしくないし、もしかしたら、もっと後かもしれないけど、すぐに答えが出た。
パチン!って、肌に何かが当たる音がして、レヴィがやっと意識を取り戻した。ある意味、ファンさんが先に殴ってくれて良かったって思った。あたしがあいつを殴るなんて、無理だもん。
あいつが何やらかしたにしろ、友達だったんだし。
あたしの方が、自分を傷つけることになってたと思う。絶対、楽しい経験にはならないし。
レヴィの友達がうめき声をあげて、ファンさんがあいつの胴体に、的確な一撃をお見舞いした。内臓破裂とかさせないように、相当我慢したんだろうな。
「氷水持ってこい」ファンさんは、縛られた2人から目を離さずに命令してきた。あたしは、足が勝手に冷蔵庫に向かって、冷たい水が入ったピッチャーを取り出した。
ファンさんに渡して、念のためちょっと距離を取った。もし、我慢の限界超えちゃってたら、怖いじゃん。そうなって欲しくないけど、最悪の事態に備えるのは、別に悪いことじゃないし。
躊躇することなく、ファンさんはピッチャーの中身を2人にぶっかけた。2人は、息を荒げながら、ハッと意識を取り戻した。身体がブルブル震えてるのが見えるし、冷たい水が服を通り抜けて、肌に染み込んでいくのが、まるで分かるようだった。
あんな風に目覚めたら、マジで嫌だわ。身体は震えて熱が出てるのに、縄で縛られてるから、ただ震えるしかないんだもん。ファンさんは2人の前にしゃがみこんで、知らない方の男の襟を掴んだ。「何しに来たんだ?二度と顔見せんなって言った意味、分かってなかったのか」
男は、アホなことに、苦しい息の中でクスクス笑った。もし、もがこうとしたら、ロープがさらに食い込んで、もっと痛い目に遭うのに。余計な痛みを受ける必要はないのにね。
「あー、おっさんにケツ蹴りかます約束、果たしに来ただけだよ。約束は守る主義なんでさ」視線が、あたしの方にチラッと来た。ファンさんは立ち上がって、あたしが見られないように、男の視線を遮った。
「君とはまだ自己紹介してなかったな、お嬢さん。さあ、恥ずかしがらずに」その口調に、何か企んでる感じがして、警戒しちゃった。
「何がしたいんだ、クロフスキー?」ファンさんは、コテージで縛られてる2人を見て、ちょっとイライラしたようにため息をついた。
クロフスキーは、クスクス笑って、ちょっと残念そうに首を振った。
「おっさん、誰か来てるって聞いたからよ、お前のことマジで久しぶりだなって思ってさ。だから、遊びに来ただけ。俺が何したいか、分かってんだろ、おっさん」口元が歪んで、ニヤリと笑った。ファンさんは、嫌そうな顔をした。
「そういうのは、無理だ」ファンさんは、バッサリと言い捨てた。あたしは、握りこぶしを作ったり開いたりして、お腹の奥から湧き上がってくる気持ち悪さを抑えようとした。不安って言葉じゃ、全然足りないくらい。
またしても、クロフスキーがあたしの不安な空気を察知して、あたしに視線を向けた。
「教えてくれよ、お嬢さん。なんで、そんなに見覚えがあるんだ?」ファンさんの最後の警告がコテージに響き渡って、クロフスキーに口を閉じるように怒鳴った。
「なんだ?ビビってんのか?」挑戦的な口調に、カチンときた。何様なんだよ、マジで。