第74章
"絶対、取り戻せるって、ケース。信じてる。あいつなら、そんな簡単に諦めないよ。きっと俺たちのとこに帰ってくるし、もしそうでなくても、俺たちが取り返しに行くから" プレストンの声、すごく決意がこもってて、もしその場にいなかったら、自分が信じられないくらい。だって、あたしのこと、兄貴が飽きたらポイ捨てするおもちゃだって匂わせてきたくせに。
顔を両手で覆って、不安も悩みも全部洗い流せたらいいのにって思った。
本当は感謝しなきゃいけないんだって分かってる。この状況を恨むんじゃなくて。せめて、また会えるだけでもいい。例え、あたしのこと忘れてても、あたしはあいつのこと覚えてるし、それで十分だって思えるはずなのに。
あいつが目を覚まして、あたしをまるで他人みたいに見る姿を想像しただけで、胸の痛みは最高潮に達する。もう、失いたくない。今まで一緒に乗り越えてきたこと、全部無駄にしたくない。
病院の窓から、稲妻が走って、雷鳴が轟き、その後に雨が激しく窓を叩き始めた。部屋の暗い雰囲気にぴったりだった。
「あいつを失いたくない、プレズ。全部なかったことにしたくない。あたしのせいだよ」 泣き出してしまって、最初に涙が瞼から零れ落ちた瞬間に、温かさが全身を包み込むのに驚いた。
プレストンは静かにするように合図してくれた。「お前のせいじゃないよ、ケース。起きたことは事故なんだ。自分を責めないで」
彼の言葉で涙が止まらなくなって、しまいには、自分が悪いって壁に何かを投げつけたくなる衝動を抑えるのに必死で、胸が激しく上下した。あいつの兄貴に何が起きた後でも、プレストンが、全てあたしが来た瞬間から始まったってことに気づけないのが、本当に嫌だった。
「あたしのせいだよ、バカ!なんであたしを嫌ってくれないんだよ?!あんたの大切な人が、死にかけてんのはあたしのせいなんだ!」 あたしは怒りで叫んだ。「あんたの兄貴が何も覚えてないかもしれないのも、あたしのせいかもしれないんだよ」 彼を突き飛ばして、後ろを向いた。自分に嫌気がさして、彼の顔なんて見れなかった。
「もっと早くお金を集めて、お母さんに治療と手術を受けさせてあげられなかったから。約束を果たすことさえできなかった」 吐き出して、彼の手に肩を掴まれるのを感じた。落ち着かせようとしてくれてるんだって分かった。それを振り払って、部屋の暗い隅っこに行って、彼の方を向かずに、自分を抱きしめた。
「ストリートファイトやってるんだ、プレズ」 小声で言うと、彼はバカにするどころか、肩をすくめるのが見えた気がした。
「で?アダムもやってるよ。別に大したことじゃないだろ、ケース。それが、これとどう関係あるんだよ?」 目をぎゅっと閉じて、重い気持ちで、彼の前で自分の二重生活をぶちまけた。
「…あいつは、あの大会にまた出たら、あたしの愛する人みんな殺すって脅してきた。これは警告なんだ。アダムじゃなくて、あたしに」 背筋がゾッとして、腕にぎゅっと力が入った。プレストンからは何も聞こえなくて、その静けさに感謝して、自分の良心と悪魔の間で葛藤することにした。
「正直、あんたを責めたい。マジで、今すぐあんたを殺したい。兄貴をこんな状況にしたんだから。でも、それじゃあ、あんたが可哀想だから、できないんだ」
全てを話した後でも、あたしを軽蔑するんじゃなく、同情の眼差しを向けてる男と、無理やり向き合わされた。
「こんなことが起こるって、お前は知らなかったんだろ、ケース。兄貴を愛してるのは分かってる。お前はすごい荷物を背負ってるし、兄貴がどうするかは兄貴の選択なんだ。逃げ出したりしてないから、俺は兄貴の願いを尊重して、お前に決断を委ねるよ」
彼の視線と目が合った。
「それで、どうするんだ?」 飲み込むようにして、あたし達の視線は一度も外れることがなかった。
彼が何を言いたいのか分かってた。アダムは記憶を失くした。決断をする時が来たんだ。あたしはこの家族にとって邪魔者で、彼らの脅威だった。あたしは、愛する人達全員にとって、静かな脅威だった。狙われてるのは、あたしであって、彼らじゃないんだ。
あたしは決断しなきゃいけないんだ。ここに残るか、去るか。もっと複雑なことも考えなきゃいけない。
彼に返事を返す前に、ジェリーがやつれた顔で入ってきた。
「目が覚めた」