第82章
お腹ペコペコ! もう、グルルル…って音が止まらないレベル。昨日の夜ご飯のことなんて、全然覚えてない。アダムがズカズカ入ってきて、追い出される前にちょこっとしか食べられなかったし。
マジかよ、アイツに追い出されたことより、ご飯食べられなかったことの方がムカつくんだけど!
で、落ち込んだ感じのレストランの、さらに落ち込んだ感じの隅っこに、落ち込んだ感じのテーブルと落ち込んだ感じの椅子があって、そこに座って落ち込んでる私。フードを目深にかぶって顔隠してるから、ちょっとだけ隔離された気分になれるっていうか、プライベートな空間って感じ? 意味わかんないけど。
ウェイターが注文取りに来たんだけど、メニュー見てたら3分も経っちゃった。だって、どれも食べたいって思えるものがなかったんだもん。マジで私の胃袋、いい加減にしてくれよ!
やっと、ミートソースのスパゲッティと、チーズたっぷりモッツァレラ、あとフライドポテトに決定。
まあ、女子は食べたいものを食べなきゃね!
ウェイターが注文しに行ったから、周りをキョロキョロ見回してみることに。人から見たら、私がジロジロ見てるって思われるかもしれないけど、もうそんなこと気にしてる余裕ないし。疲れてるし、周りの落ち込んだ雰囲気に完全に飲み込まれてるから、他の人が何を考えてるかなんて考えられなかった。
でも、視界の隅に何か入ってきた。見覚えのある髪の色…忘れられるわけないでしょ!
セットしてても、絶対に忘れられない髪の色なんだから。レストランの前を歩いてる男の人に、思わず顔を向けた。腕の中に3人の子供がいて、そのうちの一人のアジア系の男の子が肩に乗ってて、男の人のオデコを指でツンツンしてる。その部分、白くなってるし!
男の人の横には、肌が黒くて、クリクリお目目の女の子が抱えられてて、男の人の服をクシャクシャしてる。左腕で女の子の細いウエストを抱きしめてて、ぎゅーってしてる。右手を、ちょっとぽっちゃりした男の子と繋いでる。子供たちは、純粋無垢な目で周りを見てて、男の人は警戒したようにキョロキョロしてた。
子供たちを抱えてる腕はそんなに強くないし、歩くスピードも早くないんだけど、すごく周りを警戒してるように見えた。私もメニューで顔を隠して、椅子にちょっと潜り込んで、じーっと見てた。
窓越しに、彼らが通り過ぎるまで見てた。女の子が男の人の服をちょっと引っ張って、右の方を指さしてる。
私もそっちを見たら、近くにアイスクリーム屋さんがある公園が見えた。男の人が頷いたと思ったら、信じられないことに、3人にアイスを奢ってあげてるの!
一体何が起こるのかと思ってたけど、まさか、あの冷酷で意地悪な男が、女の子の要求に応えて、3人全員にアイスを買ってあげるなんて、思ってもみなかったよ。
アイスを買った後、彼らはそのまま歩いて行って、角を曲がって見えなくなった。フゥーって息を吐いて、左を見ると、ウェイターが怪訝そうな顔でこっち見てた。注文したものが乗ったお盆を持ってる。
お腹がグーグー鳴って、早く食べろって訴えてる。ウェイターが料理をテーブルに置いた瞬間、カトラリーを手に取って、ガツガツ食べ始めた。モグモグしながら、味を楽しみつつ、さっきのこと考えてた。
あの、私の命を奪うかもしれない勝負に、無理やり私を参加させた男のこと考えても、口の中の味が苦くならないのは意外だった。子供たちに囲まれてる姿を見て、私の中の、彼を敵だと思ってる部分、家族やアダムの脅威だと思ってる部分が少しだけ和らいだんだ。
全部、私のせいなんだ。自分が愛する人たちに影響が出るかもしれないって考えもせずに、勢いでこの生活に飛び込んじゃったから。自分勝手でバカだった。この考えが、アダムの傍を離れようって決めた理由。
「あの子供たちは誰?」って考えてみた。ちょっと変だよね。もしかして、彼の子供?
今の若い子の妊娠率高いから、驚くことじゃないけど。でも、全然似てないし、ありえないかな。
それとも、騙して連れてきた子供たちとか? 別に子供たちが怖がってる様子もないし、なんでそんなことするのかもわかんないけど、可能性はあるよね。人身売買とか? だって、第一印象は最悪だったし。
もしかして、甥っ子とか姪っ子? 森の中で私を脅した男が、子供たちに優しくしたりするなんて、考えられない。私の愛する人たちの安全を脅して私を脅迫してきたんだから、疑いの気持ちしか持てないでしょ、ごめんだけど。
あの子供たちが人身売買されてるんじゃないかって考えたら、頭の中で警報が鳴った。椅子から急に立ち上がって、椅子を倒しそうになりながら、お会計を済ませて、レストランから飛び出した。
彼らが向かった方向に、全力で走り出したんだ。