第90章
"ナナ、行ってくるね!" って言ったら、ナナは信じられないくらいの速さでキッチンから出てきて、すねた顔してた。手にクリーム拭く布持ってるし。
「もう?」
コクンって頷いて、肩にリュック背負ってナナに近づいた。
「ごめん、でも練習するの2週間しかないから、多分全然足りないと思うんだ。だから、一秒たりとも無駄にしたくないんだ。泊めてくれてありがとう」 ナナの頬にキスしてハグした。
「クッキーのためにも?」ちょっと迷ったけど、首を横に振った。ずる賢いナナは、それが私の弱点だって知ってたんだ。マジかよ。
「わかった、じゃあ気を付けてね。自転車乗るんでしょ?」もう一回頷いてからハグして、ドアを開けた。
「またね、ナナ!」って肩越しに叫んで、後ろでドアを閉めた。家の横にある小さなガレージまで走って行って、遊びに来た時にいつも乗ってた自転車を取り出した。前回乗った時は足がギリギリ地面につくくらいだったのに、今じゃちょうどいい高さになってる。
リュックのもう片方のストラップを左肩にかけて、自転車に乗った。木々が集まってる場所へと続く細い道を走った。
探してる家は近くの丘のふもとにあって、周りを木々に囲まれてるらしいんだ。ブライアントが、おばあちゃんの家に行った時にたまにそこに連れてってくれたんだよね。あそこへの行き方を教えてくれたんだけど、最後に行ったのは3年前だし、なんとなくしか覚えてない。
やっと、1時間くらい探し回って自転車こいでたら、見覚えのある十字路に着いた。真ん中に、小さな長方形の木の看板が地面から出てて、青い矢印が描かれてる。あれ、もうすぐだってわかった。矢印の反対方向に進めばいいんだ。
兄の元先生はバカじゃないんだよ。この森の中に安全に隠れるために、色々操作する術を知ってる。教えてることは本当にすごい人で、一体どれだけの人が彼を狙ってるんだろうね。少なくともブライアントはそう言ってた。
ペダルに足をかけて、右に走り出した。しばらく坂になってて、その後下り坂になった。遠くに、草原の真ん中に小さな小屋が見えた。高い木々に囲まれてて、葉っぱが日差しを遮って、地面に影を作ってる。
小屋に近づくようにゆっくりと自転車を走らせた。大きな木のところまで来たら、スタンドを立てて自転車から降りた。小屋のドアまで歩いて行って、ノックしようとした時、後ろから声がしたんだ。
「そこで止まれ!」 遠くから聞こえる声は、かすれてるけど、いつものようにしっかりしてる。その声に足が止まって、元の場所に戻した。「お前は誰だ?」 って大声で言った。
ゆっくりと振り返って、両手を頭の両側に上げた。50代後半くらいに見える老人が、水でいっぱいになったバケツを持ってる。近くに水の水源があるに違いない。
グレーの、くたびれたシャツとズボンを履いてて、首元よりちょっと上まで伸びたヒゲを生やし、髪の毛は白髪で、お団子に結んでた。汗だくで、腕の筋肉が盛り上がって、血管が浮き出てる。
足の位置を変えて、まだバケツを持ってる。彼は武道の達人で、何でも武器になるんだ。いざとなったら、そのバケツとその中身を敵の頭に投げつけるだろうって確信してる。
「先生を探しに来たんです。覚えてますか?」