序章
よく聞く話なんだけど、生まれた瞬間から人生の全部、脳みそが記録してるんだって。あたし、そういうの信じてる。
信じられないかもしれないけど、妹が赤ちゃんの頃、ベビーベッドの隙間からチラッと見てたのをうっすら覚えてるんだ。多分、2、3歳くらいだったと思う。妹はすやすや寝てて、小さなミトンで拳を覆って、あっためてた。寝ながら、その布がちょっと動いて、拳をぎゅってしたり、パーにしたりしてたんだよね。口に拳を持っていこうとしたから、指で止めちゃった。
「ダメ、ケイシー、バイ菌。病気になっちゃうよ」って、眠そうな妹に優しく囁いたんだ。
ミトンの中の小さな指が、あたしの指を掴もうとしてるみたいに動いてた。
あたしは、ミトン越しに、小さな手を2本の指で挟んであげたら、なぜか、あたしの親指をぎゅって握ってきたんだ。まるで、それが彼女の命綱みたいに。
その感覚に、胸がキュンってなった。
シーって言って、もう片方の指で、ミトンの上から妹の手の甲を撫でてあげたんだ。
「大丈夫だよ、ケイシー。お兄ちゃんがいるからね」
その光景に見とれてたのを覚えてる。ちっちゃくて、守ってあげなきゃって思った。世界で一番可愛いって思ったんだ。
多分、最初からそうだったんだと思う。妹に夢中で、両親が連れて帰ってきた瞬間から、あたしは彼女の小指に引っかかってたんだ。
妹はあたしの世界の全てで、これからもずっとそう。そう誓ったんだ。世界から彼女を守る盾、荒波から彼女を守る岩になるって。
あたしは、ずっと彼女を守る。
誰も、あたしの妹を傷つけさせない。