第131章
ゴクって、大きく息を飲んだ。目線はカリと、向かいの女の人を行ったり来たり。
…マジで気まずい。
カリの小さな太ももをそっと撫でてみたけど、今の状況にどう反応すればいいのかわからなかった。カリの心を傷つけたくないし、アダムの新しい幸せも壊したくない。
あの子がアダムを幸せにするなら、それが私の望みだったんだから。
「おーい、いたいた!どこ探してたんだよ!」
プレストンが部屋に入ってきて、嬉しそうに手を叩いた。私たちがソファーに座っているのを見てから、やっと同じ部屋にいる女の人に気づいたみたい。
アダムが入ってくるのを見たその女の人は、涙を目いっぱいにためて、拳を握りしめて立ち上がった。「あなた!誰とも付き合ってないって言ったじゃない!この人は誰なのよ?!」
大声で叫んでる。目には悲しみと裏切りが滲んでる。あーあ、完全に恋してるじゃん。
「やば…」
プレストンはそう呟きながら、私の方に歩いてきた。弟と妹を抱き上げて、悲鳴が聞こえてくる前に部屋から出て行った。私、この2人とあのビッチに置いていかれたんだけど。
私は、2人の間を不安そうに見つめた。女の子はまたアダムに怒鳴りつけそうだし、私が間に入ることにした。アダムの過去をあの女の子が知ってるのかどうか分からないけど、こんなに大騒ぎしてるってことは、きっと知らないんだろう。
アダムがわざと黙ってるのかも分からないけど、こんなことで、せっかくの素敵な関係を台無しにしてほしくなかった。あの女の子は、誰かの人生を壊すことなく、人を愛せるような、優しそうな人だったから。
「あのさ、余計なお世話かもしれないんだけど、別にアダムのせいじゃないんだ。私が元カノだったのは事実だよ。でも、事故で記憶喪失になっちゃったから。だから、今の彼女と付き合うのは、全然おかしくないと思うんだ。
私とアダムの関係が、今どうなってるのかもよく分からないし」
大声で叫ばれて子供たちが怖がらないように、私は手短に説明した。カリに、誰かが怒ってるのは自分のせいだって思ってほしくなかったんだ。
私の説明を聞いて、彼女は少し落ち着いたみたい。
「記憶喪失になったこと、一度も言ってくれなかったよね?」
彼女はアダムに尋ねた。私は答えを知らないから、黙ってることにした。
「まだ話す準備ができてなかったんだ」
アダムは落ち着いた声で答えた。彼女は、その答えを受け入れるか、もっと詳しく説明を求めるかで迷ってる様子だったけど、最終的には、今の言葉を受け入れることにしたみたい。
「ちゃんと自己紹介してなかったわね。私はキアラって言います。アダムの元カノで、高校の同級生よ」
私は自己紹介した。元カノって言葉で詰まらなかったのは、奇跡。
まだ信じられないけど、現実を受け入れなきゃ。
「キアラちゃん、よろしくね」
彼女は作り笑顔で私に話しかけてきたから、私も同じように微笑んだ。
私は、2人にプライベートな時間をあげようと思って、プレストンを探しに行った。一体何のために私を呼び出したのか知りたかったから。正直、心がバラバラになりそうだった。
私がこんなに執着するタイプだとは思わなかったけど、これはちょっと酷すぎる。
キアラがあのビッチじゃなくて、優しい女の子だって思ってるから、もっと辛いんだと思う。憎んだり怒ったりするのが難しい。
別にアダムの幸せを願わないわけじゃないんだけど、ただ、飲み込むのが難しいだけ。
キッチンで立ち止まると、ピオとカリがクラッカーを食べているのが見えた。ピオが私に気づいて、可愛らしい歯を見せてクラッカーをくれたんだ。
思わず「可愛いー!」って言いたいのを我慢した。
2人のおでこにキスをして、クラッカーを1つ貰ってから、プレストンの方を向いて眉を上げた。
「うわ、マジかよ、ケース。知らなかったんだ。本当にごめん」
プレストンは慌てて謝ってきたから、私は手を振って「別に」って言った。
…まあ、そのうち立ち直るよ。
「それで、なんで私を呼び出したの?」
私は単刀直入に質問したから、彼は気まずそうに「あのさ…お昼ご飯に誘いたかったんだけど、彼女を紹介したくって」って答えた。
胸に、何とも言えない痛みが走った。みんな自分の幸せを見つけて、恋をしてるのに、私は自分の残された愛と幸せを守ろうとしてる。
「なんでそんなことしたいの?私、あんまり友達じゃないじゃん」
…うわ、思ったよりキツい言い方になっちゃった。
「そんなことないよ、ケース。お前は妹みたいなもんだし、紹介したいんだ。昨日から付き合うことになったんだけど、仲良くなってほしいんだ」
プレストンがそう言ったから、感動して息を飲んだ。
私はプレストンに駆け寄って、強く抱きしめた。最近、なんでこんなに感情的になってるんだろう。
「てか、お前、顔色悪すぎ。何があったんだよ?」
私はプレストンのその言葉に軽く肩を叩いて、肩をすくめた。
「相手を見てからね」
冗談っぽく言ったけど、プレストンの表情は真剣になった。
「本当に大丈夫なのか?どこか折れてるとかじゃないよな?さっき足を引きずってたし」
矢継ぎ早に質問されたから、私はただ頷いて、首を横に振った。
「大丈夫だよ」
そう答えた。
「彼女にこんな姿を見られても、本当に大丈夫?今日、誰かに会う準備なんて全然できてないんだけど」
私は不安そうに尋ねると、プレストンは励ますように笑った。
「大丈夫、お前も気に入ると思うよ」
私も笑顔で返して、子供たちの方を見た。カリが不満そうに腕組みして、プレストンに「私たちも行くんでしょ?」って言ったから、プレストンは笑って頷いた。
「じゃあ、行こう!」
私は手を叩いて、ピオを抱き上げ、カリに私の右手を掴ませた。カリはクラッカーをペロペロ舐めてる。
プレストンは鍵を掴んで、アダムと、私じゃない彼女に「バイバイ」って言った。早く忘れなきゃ。
あいつはもう私のものじゃない、もう無理なんだ。
なんだっけ?愛してるなら手放す?
…そんなの、言うのは簡単だけど、実際は全然簡単じゃない。
私は、目に溜まってきた涙を欠伸で隠して、目を擦りながら、子供たちの靴を履かせるのを手伝った。みんな車に乗り込んだら、プレストンが音楽をかけて、みんなで大声で歌った。
プレストンが車を停めて、私たちが車から降りて、カフェに入った。子供たちは私の手をしっかり握ってる。
プレストンがドアを開けてくれて、カフェを見渡すと、何かを煮詰める甘い香りと、落ち着いた雰囲気が最高だった。
…でも、私はある顔を見て、そこで止まってしまった。
マディソン。
まさか。
ありえないでしょ。
お願いだから、プレストンの彼女だけはやめて。
お願い、この世界。
プレストンが彼女に手を振ると、彼女も手を振り返した。私のことを見て、私がピオとカリを抱っこしてるのを見て、彼女は固まった。
…クソったれ、世界め。なんで私ばっかりこんな目に遭うんだよ!