第204章 エピローグ
車がひっくり返っちゃって、横向きに着地。ケイシーが私の下。まぶたが濡れてて、目を開けられない。ケイシーの頭を守るために腕を置いてたんだけど、車が揺れて横転した時の衝撃から。下半身の感覚もなかったけど、ケイシーが私の下で動くから、ちゃんと包み込めてるってわかった。
ものすごい痛みの中で、ケイシーの泣き声とか叫び声が、かすかなシューって音と一緒に聞こえる。ちょっとでも動くと、体のどこかが痛くて、気絶しそうになる。でも、とてつもなく痛いけど、心の中ではホッとしてた。
妹は大丈夫。生きてる。動いてる。
それだけでよかったんだ。
「イヤ!イヤだよ!ブライ?ブライ?!ダメ、こんなことありえないよ。ブライ?!起きて、お願い、起きて!」って、私の下で懇願する声が聞こえたけど、いくら頑張っても、目がくっついちゃったみたいに開かない。
彼女のすすり泣きと叫び声が、私の心を打ち砕いた。数分後には、声がかすれてガラガラになってたけど、それでも諦めずに叫んでて、絶望感が声に詰まってる。
「助けて!誰か助けて!お願い!助けて!誰かお願い!」って、私の下でもがいて、手が抜け出そうとしてるんだけど、動くたびに体が痛くて、また痛みが走る。行ってほしい、でも、ものすごい痛みの中、車から出て安全な場所に逃げてって言いたかった。
でも、彼女が動かなくなって、胸が痛いくらいドキドキした。妹に何かあったのかと思ったけど、数秒後には彼女の声が聞こえてきて、心臓を締め付けてた恐怖が少し緩んだ。「ブライ?!頑張って!行かないで!ブライー」
私も一緒に泣きたくなった。こんなこと、私たちに起こるなんて信じられない。今までよく頑張って、いろんな困難を乗り越えて、ガラスの破片だらけの道を歩いてきたのに、ここで倒れてる。
この瞬間から、彼女の人生がどうなるのか、想像もつかない。いっそ、神様が私と一緒に彼女をどこかに連れて行ってくれたらって思っちゃった。そうすれば、今までみたいに、彼女のことを見てあげられるし、守ってあげられるから。
彼女の髪を撫でてあげて、「大丈夫だよ」って言いたかった。
顔を上げて、人生でどんなことがあっても乗り越えられるって、彼女は強いんだって言ってあげたかった。
だって、彼女はそうだから。
そうじゃなきゃダメなんだ。
こんな世界に、彼女を一人ぼっちで置いていくなんて想像できない。私がいなくなったら、彼女を守ってくれる人はいないし、危険がいっぱいあるんだ。それがすごく辛くて、心配でたまらないけど、その時はただひたすら、神様に、今までで一番真剣に祈るしかなかった。他に頼る人もいなかったんだ。
人生の瀬戸際だって分かってるからじゃなくて、私が去った後、私のケイシーを見守ってくれる人がいるって、安心したかったから、そんなことを思ってた。
「笑って、小さなお嬢さん。誰にも、何にも負けないで。胸を張って、自分を誇りに思って。」って、言いたかった。でも、肺の焼け付くような痛みがそれを許してくれなかった。
肺に何か溜まってるみたいで、肋骨が折れて刺さったんだと思う。息をするのが苦しくなってきた。咳をしようとしたけど、ゴボゴボって音がして、液体が唇の間から流れ出て、顎を伝ってる。
どれだけ痛いか考えると、もうダメだってわかったけど、死ぬ間際でも、考えてしまう。「せめて、膝をついて降参するんじゃなくて、戦って死ねたんだ」って。
ダッシュボードのコンパートメントに隠した書類のことを考えて、誰かが見つけて、私のやり残したことをやってくれるといいなと思った。
でも、できることはやったし、精一杯頑張った。
意識が薄れてきて、頬に液体が伝ってきたけど、血なのか涙なのか分からなかった。ただ一つ後悔してるのは、ケイシーに最後に笑顔を見せて、「大丈夫だよ。君は大丈夫だよ」って、もう一度、最後に言ってあげられなかったこと。
彼女の叫び声の絶望感は、この世を去ることよりも辛かった。それは、死後も私を苦しめる音になるだろうってわかってた。心臓の奥底に響いて、骨に、魂にまで響く音だった。
約束を守れなくてごめん、彼女が感じてる痛みを守ってあげられなくてごめん、せめてそばにいてあげられなくてごめんって謝りたかった。この世界に一人ぼっちにしてごめん、これが私の望みじゃなかったって言いたかった。精一杯やったんだって伝えたかった。
ごめんね。愛してる。いつも君を誇りに思ってる。ごめんね。
だから、自分以上に愛した妹に最後の謝罪をして、私は息を引き取った。
——————
救急車が事故の被害者を運んだ後、レッカー車が事故現場にやってきた。
飲酒運転事故ってことになってたから、警察はレッカー車から降りてきた男たちに手を振った。
二人の男は車をフックで繋いで、車のドアをちらっと見てた。
警察が目を離してる間に、レッカー車の従業員に変装した男が、車のダッシュボードのコンパートメントを開けて、そこに置かれてた書類を盗んだ。それをジャケットの中に隠して、警察に見つからないように夜の闇の中でトラックに急いで戻った。
トラックに乗ると、ジャケットのファスナーを開けて、相棒に見せた。
相棒が書類を回収できたのを確認すると、すぐにエンジンをかけて、運営会社のトラックじゃないって誰にも気づかれないうちに、走り去ったんだ。